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「――『深度・弐』――」


 引き抜いた大鎌を弄びながら『豪血』の深度を上げる。


 同時に残穢を取り込み、血と混合。

 初めて試したが、要は普段、樹鉄刀でやってることと根本的な理屈は同じ。

 かなり効率は落ちるけれど、これで『深度・弐』状態でも五分近く保つ。


「ハハッ。血管に砂利でも詰めたみてーだぜ」


 こりゃ『鉄血』が効かねぇタイプの猛毒だな。


「残り滓とは言え、呪詛を……『消穢』と同系統のスキルも持たずにそういう真似すると、普通は精神汚染で正気を失うんだけど」


 何驚いてんだ、わざとらしい。


「オイオイオイオイ、ちゃんヒルよぉ。てめぇ、まさか俺を正気だと思ってたのか?」

「それこそ、まさか。キミは僕の同類だ、まともなワケがない」


 そこまで言い切られると、なんか逆にヤダ。


「……けど、ねぇ?」


 前置き代わりウインクしたヒルダが、大鎌を指差す。


「ツキヒコ。まさか僕を相手に、そんな慣れない得物で戦う気なのかな?」


 佇まいや口調こそ穏やか。しかし纏う力場が小さく波打っている。

 舐めてんのか、と。そう仰りたい御様子。


 …………。

 そりゃ、こっちの台詞だ。


「てめぇこそよォ。レールガンオモチャなんぞで俺と闘り合えるとか、本気で思ってんのかァ?」


 問い返し、一拍。八つの銃口が、各々紫電を撒き散らす。


 十六、三十二、六十四、百二十八。

 全方位よりマズルフラッシュが爆ぜる度、僅かずつ射線をズラされた金属片が弾幕を形成する。


 音の五倍速に届く大口径弾、秒間十五発ほどでの連射。

 難度六のダンジョンボス程度なら、これだけでミンチと化すだろう火力。


 が――今の俺にとっちゃ遅過ぎるし、軽過ぎるし、ヌル過ぎる。


「修理代は払ってやる。見積もりが出たら請求書を送れや」


 ただし、この後も無事生きていれば、な。


 大鎌の石突を掴み、ビルの屋上が丸ごと吹き飛ぶ勢いで踏み込む。

 およそ半径十メートル圏内に展開されたレールガンを全て斬り伏せるには、コンマ一秒も要らなかった。


「ずん、ばら、りん」


 ヒルダの『空想イマジナリー力学ストレングス』は、力場を六つ以上に増やすと個々の出力が落ち始める。

 そんなスキルの性質や発動可能距離を鑑みれば、一度に多くを操るなら盾より銃を選ぶのは道理。


 ……さりとて、銃弾を遥かに凌ぐ速度で動ける者に、その選択は悪手。

 鈍重、かつ防壁の役割を果たす力場も薄いと来れば、この通り。


 あと、ひとつ補足。


「慣れねぇ得物? んなもん俺にあるかっつーの」


 古今東西の武器一式は過去に凡そ触ってる。練度は十分。

 取り分け大鎌――臨月呪母は今までのダンジョンアタック中、樹鉄刀と交換する形で何度か使っていた。


 つまるところ、俺は樹鉄刀や水銀刀の次くらいに、コイツの取り回しを心得てる。

 リゼも重量の問題で断式が、大前提の問題で縛式が使えないものの、他形態の扱いは上手い。特に曲式は一見の価値ありってレベル。


「武芸百般。一芸だけじゃ探索者シーカーは務まらねぇのさ」

「キミの場合、そういう次元の話じゃないと思うんだけど」





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