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「やはり視覚と聴覚を欺く程度じゃ、キミには不足みたいだね」


 逆さのまま腕組みしたヒルダが『ピーカブー不可視化』と『凪の湖畔消音』を解く。


 刹那、じわりと視界へ映り込む小銃の群れ。

 併せて耳朶を撫でる、ジェネレーターの低い駆動音。


「レールガンか。マシナリー系クリーチャーのドロップ品だな」


 銃身と機関部だけの、グリップどころか引鉄すら無い簡素極まれりな構造。

 どうやって撃つんだよ。ドロップした武器は普通、人間に合わせた仕様変更と規格調整の改造くらいするもんだぞ。


「その通り。フランスの難度八ダンジョン『退廃都市ミシェル』六十七階層で手に入る。中々の高級品でね、一挺あたり五十万ユーロは下らなかったよ」


 日本円に直せば全部で五億ちょいか。

 天獄の攻略報酬を注ぎ込めば十分に賄える額。探索者シーカーとしちゃ至極真っ当な金の使い方だ。


 が。今の論点は、生憎そこではない。


「……もっぺん聞くぜ。こりゃ、どういう了見だ?」


 だらりと両腕を脱力させ、猫背気味に臨戦態勢を取りつつ、再度問う。


 返答は、銃声だった。


「豪血」


 僅か十数メートル先より迫る、初速の時点で音の三倍から五倍へと達した、紫電纏う金属片。

 発砲寸前に『豪血』を発動させ、時間感覚を圧し固めてすら回避困難な速度。


 尤も、一発くらいなら『深度・壱』でも十分に対応可能だが。


「――お見事」

「ほいふぁ、ふぉーも」


 茶化すようなヒルダの賛辞を適当に流しつつ、上手いこと歯で挟み取った弾丸を噛み砕く。


「まさか受け止めるなんてね。攻防選べるなら『鉄血』で守りを固めるのがセオリーじゃないかな?」

「服がオシャカになっちまうだろ」


 リゼの『消穢』や『幽体化アストラル』と違い『双血』は衣服にまで適用されない。

 今日の一式は、つむぎちゃんが選んでくれたものだ。襤褸にしてしまうのは憚られる。


「大体、撃つ瞬間と距離が分かれば着弾のタイミングを計るくらい寝てても出来る。弾幕張られたんなら兎も角、単発程度、わざわざガードするようなモンでもねぇ」


 レールガンだろうとコイルガンだろうと、銃は銃。妙な仕掛けでも施さない限り、基本的に真っ直ぐしか飛ばんし。


「……どうあれ、マッハ五の八十口径弾を、そんな風に防げる人間なんて、キミくらいだと思うよ」


 苦笑混じり、長く伸びた髪をうねうね動かすヒルダ。

 一方、俺は粉々の弾頭を足元に吐き捨てつつ、を確信した。


「お前か。ライブ会場で俺を撃ったのは」

「うん。恙なくメッセージを受け取ってくれて何より」





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