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「皆、大丈夫か!? どこか動作に不具合は!?」


 これ以上の事件は起こりそうもないし、そろそろ戻ろうかと考えていた俺を他所、博士がガイノイド達に呼び掛ける。


「アタシは平気。故障もデータ破損も無さげ」

「私の方も異常は確認出来ない。ノープロブレムだ、マスター」


 最初に答えたのは、カラフルな髪色をしたパリピ系と、気の強さが口舌に表れているボーイッシュ系。

 6THとLza。片やグループのリーダー格、片や女性人気ナンバーワンの二機。


「パパこそ大丈夫なの? それにラムダ達を捕まえようとした怖い人はどう――ひっ!?」


 小学生、いいとこ中学生程度の矮躯を縮こまらせ、Lzaの後ろに隠れたガイノイド。

 Λ。その幼い容姿と舌足らず気味な喋り方で特定層のオトモダチに絶大な支持を受けている彼女は、積み上がった不審者集団を見て、あからさまに怯えていた。

 微かに駆動音が聴こえなければ、とても機械とは思えんリアクションだな。


「怖がる必要は無いよΛ。彼が助けてくれたからね」


 そう告げた博士の視線に合わせ、場の意識が俺へと集まる。


 、浮き足立った空気で揺らぐ中、俺という異物に対して向けられる困惑と警戒。

 けれども、それを断ち切るように黒髪のガイノイドが前へ出て、深々と頭を下げる。


「ありがとうございますっ! 本当に、本当にっ!!」


 庵。

 女性人気で頭ひとつ抜けているのがLzaなら、男性人気で水をあけるのが彼女。

 コンセプトは正統派美少女。故に人を選ばず、幅広い層からウケるってワケだ。


 ……ふむ。


「礼はいい」


 ただし。


「その代わり、こいつにサイン貰えるか?」


 ポケットに突っ込んでたブロマイドを差し出す。

 ああ。宛名は勿論、甘木くんで頼む。






「驚いた。こんなアクシデントが絡んでもるのか、ライブ」


 警備室に不審者集団を明け渡した後、当然とばかりステージへ向かう五機。

 6TH曰く「とりまアタシら歌ってナンボだし?」との談。

 プロ意識の化身かよ。


「ま、甘木くんをガッカリさせずに済んだのは僥倖、僥倖」


 あの銃弾の送り主や、その意図は不明だが、いちいち考察を重ねるのもダルい。

 生憎、探偵ごっこに興じる気分ではないのだ。


 ……ただ。ひとつだけ、ハッキリさせておきたい疑問がある。


「なァ」

「はい」


 おもむろに振り返る。

 そこにはガイノイドが一機、身じろぎもせず立っていた。


 膝に届く青髪。表情に乏しい顔つき。俺より頭半分低い程度の長身。

 u-a。明らかに他四機とは異なる空気を纏った、奇妙な存在。


 俺は彼女との間合いを詰め、耳元に口を寄せる。

 そして。問い掛けよりも殆ど確認に近い語調で、告げた。


「お前。今日、自分達が襲われることだろ」

「はい」


 随分あっさり認めたな。ちょい拍子抜け。

 まあいい。本題までの手間が省けて助かる。


「知ってた理由は聞かねぇ。興味もねぇ。だが、だったら何故、対策を打たなかった」


 あのまま拐かされていれば、辿ったであろう末路は想像に容易い。

 にも拘らず、コイツからは抵抗の形跡すら見て取れなかった。

 正直、意味が分からん。腑に落ちん。


「まさか、ネジの一本まで分解されたい破滅願望でもあんのか?」

「貴方と一緒にしないで下さい」


 初対面のロボットにディスられ候。

 右手ロケットパンチに改造するぞ、てめぇ。


「ひどく簡単な結論です」


 いや、換装タイプのパイルバンカーも捨て難い。

 とっつきは男のロマン。


「誠に遺憾かつ業腹な、不快感すら覚える話ですが……ので何もしませんでした。藤堂月彦」


 …………。


「あァ?」





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