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「やべーなオイ」


 会場内外を覆う人の海。

 まさしく、砂糖菓子に集る蟻の如き光景。


 見てるだけで鬱陶しくなる長蛇の列に並ぶ者。

 当日券は無いのかとスタッフに喚き散らす者。

 物販エリアでグッズを買い漁る者。


 見渡す限り行動は様々だが、集まった目的は皆同じ。


「こんだけの数がロボットの歌を聴きに、ねぇ」


 世も末だな。






 甘木くんが快適に歩けるよう雑踏を押し退け、道を作る。

 散れ散れ愚民ども。叩きのめすぞ。


「ところで甘木くんは、シンセサイザー・ファウンスのファンだったりするのか?」

「シンギュラリティ・ガールズです」


 全然違った。

 ごめんよ、関心薄いことは覚えねーんだ俺。


「……ファンと言うか、学校じゃメンバー毎の派閥が生まれるくらい流行ってると言うか……」


 照れ臭いらしく、言葉尻を濁す甘木くん。


 成程、つまりファンなワケだ。

 思い返せば誘った時も、かなり食い気味に「行きます!」と答えてたし。


「つーか派閥て」

「俺の居るクラスは庵派と6TH派が多いですね」


 清純系とパリピギャルで二分されてんの? 中々に極端だな。


 ちなみに甘木くんは庵派らしい。

 中高生、しかも女性免疫の少ない男子校通いとかには、ああいうストレートなタイプが結局のところ一番刺さるっつう話よ。

 もし見掛けたら、さっき仕入れたブロマイドにサインでも強請ってみるとしよう。






「ところで藤堂さん。席ってどこです?」

「ああ、それなら三階の個室――」


 ――咄嗟に振り返り、意識を尖らす。

 次いで『豪血』を発動させ、を掴み取った。


「へ……あ、あの、藤堂さん?」


 唐突な戦闘態勢に目を丸くする甘木くん。

 そんな彼へと、チケットを押し付けるように手渡す。


「悪い、先に行っててくれ。用事を思い出した」


 言うが早いか体勢を低く落とし、大混雑の隙間を縫って駆ける。

 瞬く間に人垣を越え、少しばかり視界が開けると同時、立ち止まった。


「どこのどいつだ。ナメた真似しやがって」


 ひとまず『豪血』を解き、握り締めた拳を開く。

 その掌中には――未だ熱を孕む、一発の銃弾。





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