343
「やべーなオイ」
会場内外を覆う人の海。
まさしく、砂糖菓子に集る蟻の如き光景。
見てるだけで鬱陶しくなる長蛇の列に並ぶ者。
当日券は無いのかとスタッフに喚き散らす者。
物販エリアでグッズを買い漁る者。
見渡す限り行動は様々だが、集まった目的は皆同じ。
「こんだけの数がロボットの歌を聴きに、ねぇ」
世も末だな。
甘木くんが快適に歩けるよう雑踏を押し退け、道を作る。
散れ散れ愚民ども。叩きのめすぞ。
「ところで甘木くんは、シンセサイザー・ファウンスのファンだったりするのか?」
「シンギュラリティ・ガールズです」
全然違った。
ごめんよ、関心薄いことは覚えねーんだ俺。
「……ファンと言うか、学校じゃメンバー毎の派閥が生まれるくらい流行ってると言うか……」
照れ臭いらしく、言葉尻を濁す甘木くん。
成程、つまりファンなワケだ。
思い返せば誘った時も、かなり食い気味に「行きます!」と答えてたし。
「つーか派閥て」
「俺の居るクラスは庵派と6TH派が多いですね」
清純系とパリピギャルで二分されてんの? 中々に極端だな。
ちなみに甘木くんは庵派らしい。
中高生、しかも女性免疫の少ない男子校通いとかには、ああいうストレートなタイプが結局のところ一番刺さるっつう話よ。
もし見掛けたら、さっき仕入れたブロマイドにサインでも強請ってみるとしよう。
「ところで藤堂さん。席ってどこです?」
「ああ、それなら三階の個室――」
――咄嗟に振り返り、意識を尖らす。
次いで『豪血』を発動させ、それを掴み取った。
「へ……あ、あの、藤堂さん?」
唐突な戦闘態勢に目を丸くする甘木くん。
そんな彼へと、チケットを押し付けるように手渡す。
「悪い、先に行っててくれ。用事を思い出した」
言うが早いか体勢を低く落とし、大混雑の隙間を縫って駆ける。
瞬く間に人垣を越え、少しばかり視界が開けると同時、立ち止まった。
「どこのどいつだ。ナメた真似しやがって」
ひとまず『豪血』を解き、握り締めた拳を開く。
その掌中には――未だ熱を孕む、一発の銃弾。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます