342
「すみません藤堂さん、助けて頂いて……」
恐縮した様子で深々と低頭する甘木くん。
いつも通り、五歳下とは信じ難い礼儀正しさ。
兄妹揃って人間できてやがる。御両親の薫陶かね。
「気にすんな。ああいう手合いにゃハッキリ「失せろ」とでも言ってやればいいんだよ」
「あはは……」
遠慮がちに返る苦笑い。
妹のためとは言え、遍く可能性の器たるスロットを売り払えるような超絶好青年には難しいか。
ライブ会場の入場開始時間まで少し時間があったので、小腹を満たすべく適当なファミレスへ。
メニューのここからここまで、お願いします。
「凄い量ですね……」
「スキルの影響で、な」
身体能力と併せて跳ね上がった消費エネルギー量。今や最低でも一日二万キロカロリーは摂らねば保たない。
人の域を外れた肉体を得た代償なのだろう。いいけど。
「色々頼んだから、甘木くんも好きなやつ摘んでくれ。奢るぜ」
「え、あ、や、流石に悪いですよ! お金なら藤堂さんのお陰で有り余ってますし!」
身振り手振り、慌てふためく甘木くん。
つむぎちゃんそっくりな反応と仕草。顔こそあまり似てないものの、こういうところは血の繋がりを如実に感じさせる。
が、なんと言われたところで彼に財布を出させる気は無い。
「まーまーまーまー、まーまーまーまーまーまーまーまー」
「いや多いです、まー」
まっまっま。
じゃねぇ、はっはっは。
「細かい話は置いといて、食おうぜ? ほらピザとかどうよピザ」
熱々のマルゲリータに手を伸ばし、しかし取る前に一度、指輪を外す。
――と。
「…………え」
テーブルの端に置いたそれを、甘木くんが唖然と目で追った。
「どしたん?」
「……藤堂、さん……その……ご結婚、されて……たん……です、か?」
「あ? あぁ、最近リゼとな」
頬杖つきながら頷くと、少しずつ表情を引き攣らせ、顔色も褪めて行く甘木くん。
え、ちょ、なに? 腹でも壊した? 救急車呼ぶ?
「……………………あの。ひとつ、お願いが」
「お、おう」
およそ只事とは思えぬ様相で視線を合わされた。
此方も佇まいを直し、続く言葉を待つ。
「その話、つむぎには黙ってて下さい……出来れば百年くらい……」
それ、ほぼ一生ってことじゃね?
俺は不老だけども。寿命じゃ死にませんけども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます