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「あ」
リゼのそんな声を聞いたのは、繋いで貰った道を渡る直前のこと。
次いで、俺自身も異変に気付く。
「あァ?」
空間の境目を潜り抜けた先に地面が無い。
つーか落ちてる。現在進行形で。
「ごめん月彦ー、上に三百メートルくらい座標ミスったー」
塞がり始めた穴から顔を出したリゼが悪びれもせず言う。
「それじゃ、帰る時は電話かメッセ入れなさいねー」
気だるげに声を張り、のろのろ引っ込む薄情者。
目隠しで米粒に写経する域の精密作業を菓子食う片手間でやるから、こうなるんだ。
「ったく」
普通なら即死。落下までの八秒弱で神への祈りを済ませるべきシチュエーション。
が、生憎と信心深く祈るようなタチではないし、この程度で死ぬようなタマでもない。
「鉄血」
アスファルト表面の細かな亀裂が視えたあたりで、静脈に青光を伝わせる。
そうして着地の瞬間、両脚と右腕で全ての衝撃を受け止め、舗装路の損壊を防ぐ。
クレーター作って訴訟とか起こされたらダルいからな。
「うわあ!? な、なんだ、ドラマの撮影!?」
「すげー、スーパーヒーロー着地だ! 初めて見た!」
ざわめく周囲の通行人達。
まごまごしてたら通報のひとつも食らいかねん。さっさと離れよう。
「リゼの奴、帰ったら覚えてろよ。こう、いい感じの仕置きを……あー」
駄目だ。内容が思い付かん。
もういいや。無罪で。
「甘木くーん。甘木くんやーい」
待ち合わせ場所の新横浜駅前にて甘木くんを探す。
どこだどこだ。この近辺は相変わらず構造が複雑だな鬱陶しい。
初めて来たけど。
「豪血」
長々と時間をかけるのも面倒ゆえ『豪血』発動。
感覚能力の強化によって完全索敵領域を広げ、周囲一帯のあらゆる情報を照らし出す。
緊急時を除いた指定区域以外での戦闘系スキル使用は違法? 知らねぇ言語だな、スワヒリ語か?
「居た」
駅構内の北口側。派手な女子大生二人に逆ナンされてら。
純情な男子校生を困らせるんじゃありませんよ、肉食系共が。
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