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正直な話、気が進まない。
とてもとても、気が進まない。
しかし、転売すれば七桁に届きかねんプラチナチケット。入手には結構な苦労があった筈。
勘違いとは言え、加えて相手が吉田のアホとは言え、その厚意を無碍にするのは憚られる。
あと、どうせ暇だし。
俺もリゼも来月まで装備が揃わねーから、流石に高難度ダンジョンは辛いんだよな。
そりゃ難度十の禁止令も出されるわ。残当。
「つーワケで一緒に行こうぜ。ペアチケットなんだ、これ」
「嫌よ面倒臭い」
ですよねー。
人混み嫌いなリゼにはI字バランスしながら断られたため、適当に他をあたってみる。
……などと言っても、こちとら基本的に単孤無頼。
連絡を取り合う人間など限られており、ぶっちゃけ片手で数え足りる。
〔うん、無理〕
「だよな」
その中の一人であるヒルダを駄目元で誘ってみたら、やっぱり駄目だった。
当たり前が過ぎる。ライブは三日後、向こうはドイツ在住。
そうホイホイ来れるかっつーの。リゼの空間転移で国境越えるにも手続きが要るし。
〔ごめんねツキヒコ。折角、声をかけてくれたのに。行けるなら行きたいんだよ、本当だよ。トモダチ嘘吐かない〕
情緒不安定な女を宥める彼氏か、てめぇは。
〔どうしても無理なんだ。実は今、ロシアの山奥までチュパカブラを探しに来てて……〕
吉田の言ってた知り合いって、お前だったんかい。
だから、せめて南米に行け南米に。
チュパカブラとか実在自体かなり怪しいのに、縁もゆかりも無いロシアでなんぞ逆立ちしようと見付かるワケがねぇ。
そもそも、どんな経緯でチュパカブラ探しをする流れに――
〔――あーっ!? 居た、居たよヨシダ! そっちに逃げた!〕
〔ひゃっほーい! 俺ちゃん必殺の四十八式バックドロップを見舞ってやるぜー!!〕
マジかよ嘘だろ。
〔悪いけどツキヒコ、後で掛け直すね!〕
「お、おう」
言葉尻を待たず、切れる通話。
世は不思議で満ちてやがる。何事も否定から入るべきではないという教訓だな。
「……ライブは甘木くんでも誘ってみるか……」
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