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「そんなこんなで返すタイミングを逸しちまった。既に奴とは電話も繋がらん」
「相変わらず妙なもの貰って来るわねアンタ。まあ前の変てこな剣よりはマシだけど」
ヨガマットの上で牛面のポーズを取りつつ、床の間に立て掛けた、吉田曰くの聖剣を見遣るリゼ。
色々試したけれど、結局どうやっても抜けなかった代物。
俺が全力で引っ張っても、いっそブッ壊そうとリゼが呪詛を注ぎ込んでもビクともしねぇ埒外な頑丈さ。
なので最近は専ら布団叩きとかに使ってる。
あとバッティングセンターに持ち込んでバット代わりにしたり。球すげー飛ぶんだよ。
「にしても。シンガルのライブチケットなんて良く手に入れられたわね、そいつ」
百八十度の開脚姿勢で、べったりと床に上体を這わせながらリゼが言う。
「なんだよ。そんなに人気なのか?」
「私も別に詳しくないけど、毎回、秒で席が埋まるらしいわよ」
軽くスマホで調べてみると、出るわ出るわ、画像や情報サイトの数々。
順繰りに幾つか回り、概要を纏める。
――シンギュラリティ・ガールズ。
世界初のガイノイドによるアーティストグループ。
元々はマシナリー系クリーチャーのドロップ品を解析・研究することで技術的問題点をクリアした汎用型AI稼働実験の一環に過ぎなかったそうだが、瞬く間に爆発的人気を得、本格デビュー。
人間と変わらぬ感情、機械がゆえの完璧な歌唱能力を併せ持ち、僅か三年の活動期間で押しも押されもせぬトップスターへと上り詰めた、人造の綺羅星達。
この国は一体どこを目指してるんだ。
「ふーん……お。中々のビューティー発見」
「どうせ
メンバーは五人。いや五体? どっちでも良いか別に。
快活そうな王子様系ボーイッシュのLza。
幼子じみたデザインの
ギャルと言うかパリピっぽい
清楚要素を前面に押し出した
そして。
「――?」
妙な引っ掛かりを覚え、視線が止まる。
ライブ中だろう、煌びやかなステージでポーズを取る五人。
その左端。最も背が高く、明るい青髪を膝まで伸ばしたポーカーフェイスの、パッと見では一番ガイノイドらしいガイノイド。
名を、
「なんだ……? コイツだけ、他と違うな」
具体的に何が違うのかまでは、流石に画像越しだと今ひとつ分からんが。
それでも、拭えぬ違和感があるのは確かだ。
「ふむ」
俺は暫し首を捻り……程なく興味を失い、スマホを座布団に放り投げた。
「そんなことより、おうどん食べたいーってな」
「私、カレー蕎麦」
成程。蕎麦も悪くねぇ。
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