336・閑話11






「いや疲れた疲れた。久々の全身運動だったわ、だいぶ鈍ってやがる」


 筋肉の鎧で覆われた身体を伸ばし、どっかりと椅子に座るシンゲン。

 歳は取りたくねぇな、などと若々しい外見に似合わぬ愚痴を呟いた後、彼は対面へと腰掛けるカルメンを正視した。


「全く、ハガネの奴にも困ったもんだぜ。アイツが目ぇ覚ました時点で止めに入らなきゃ、確実に『魔人』のアンちゃんを殺しちまってたぞ」

「お陰で私達二人ともボロボロですけどねぇ……キョウくんか、せめてジャッカルさんが居れば、もっと穏便に済んだんでしょうけど」


 六趣會『畜生道』ハガネ。本名、雪代萵苣。旧姓は五十鈴いすず

 世界的に広く知られた探索者シーカーであり、剣腕に於いては『比するに能わず』とまで称された生粋の武闘派。


 一方で強者を餌、殺戮を食事と見做し、その欲求を満たすことに躊躇を持たない危険思想の持ち主。

 仲間達の尽力が無ければ、とうに罪人と成り果てているだろう、世間一般的な価値観に当て嵌めるところの破綻者。

 

 尚、同じ六趣會の一員『人間道』キョウとは婚姻関係にある。

 そして四児の母。意外にも子育ては堪能。


「ところでハガネちゃんは?」

「ジャッカルに電話で説教食らってる」


 はて、とカルメンは小首を傾げた。

 夫にこそ従順なものの、根本的には天上天下唯我独尊を地で行くハガネが、そんなものを素直に受ける姿など、あまり上手く想像出来なかったからだ。


「もし切ったらキョウと灰銀を二人きりにするぞって脅されてたな」

「あぁ成程。異母兄弟、確定演出ですねぇ」


 規模だけで言えば零細もいいところの六趣會だが、人間関係は割と複雑らしい。





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