335・閑話10






「はい。はい、こっちは大丈夫でしたよ」


 無機質なデザインの壁に寄り掛かり、チョーカー型のスマホを通し、誰かと話すカルメン。


「えぇ勿論。そちらが心配するようなことは何も。万事、月彦くんが片付けてくれました……やり方は、かなり強引でしたけど」


 頷きながら微笑む彼女は、果たして何を言われたのか、くすくすと口元に手を添えた。


「相変わらず疑り深いですねぇ。自分達でと決めたのでしょう? だったら信じてあげるべきかと」


 聞き分けの悪い子供を嗜めるかの如き口調。

 ひとつ、小さな溜息が差し挟まれる。


「そもそも理世ちゃんは、もう立派な成人。いつまでも過保護を引き摺るのは感心出来ませんよ」


 そんな風だから、夫婦揃って自分の娘に煩わしがられるんです。

 そう続けたカルメンは、ゆっくりと佇まいを直し、あちこち破れ、装飾も多くが損なわれ、血すら浴びた衣服の裾を整える。


「ふぅ……そろそろ切りますね。私、まだ用事が残ってますので」


 絶世の、とさえ呼べる美貌に浅からぬ疲労の色を浮かばせ、終話ボタンに指を伸ばす。

 が。はたと何かを思い出したかのように、動きを止めた。


「その前に、叔母として助言を。直接は無理でしょうけど、この際、電話でもなんでも構いません。ひと言「結婚おめでとう」と伝えなさい」


 告げるだけ告げて、返答を待つこと無く、今度こそカルメンは通話を終えた。

 次いで。割れた爪を見下ろしながら、そっと苦笑う。


「……本当に下手ですねぇ。色々と」





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