334
………………………………。
……………………。
…………。
遠く離れた空間同士を繋ぐ境目を抜け、我が家の玄関前へと出る。
気だるく手を動かし、この家を建てた人間の趣味か、電子ロックが基本の現代では珍しいシリンダー錠を解く。
砂埃ひとつ落ちていない土間で靴を脱ぎ、良く磨かれた廊下を往き、リビング代わりの和室に踏み入り――血だらけの上着を放り捨て、座り込んだ。
「あー、クソ」
血が足りねぇ。頭クラクラする。
腕輪型端末を操作し、体内ナノマシンで簡易スキャンを行う。
結果は……ひっでぇなオイ。
「見ろリゼ、失血率四十八パーセントだとよ。笑える」
「死ぬ寸前じゃない。全然笑えないわ」
冷蔵庫の増血薬を取って来てくれたリゼが、渋面で俺にフラスコを差し出す。
一気に飲み乾した。
血が充ちたら今度は腹が減ったため、ありもので適当に昼飯を拵える。
塊肉を大きめに切り、味覇と塩胡椒で味付けしたボリューム重視の特盛り肉野菜炒め。
けれど少し目を離した隙、リゼの摘み食いによる被害を受け、いいとこ大盛り程度になってしまった。
「美味しいけど無性に白米が欲しくなるわね」
なんて女だ、イナゴか貴様。ギンバイ行為は軍法会議だぞ。
だがまあ、一理ある言い分。
空の炊飯器に『ウルドの愛人』を使い『出掛ける前に米を炊いていた』過去と差し替える。
素晴らしい。やはり、このスキルは、こういう用途で持ち出すに限るぜ。
「にしても意外」
「あァ?」
食後のデザートにホールケーキを貪るリゼが、ふと零す。
どったのセンセー。
「随分、上機嫌じゃないの。あんな始末だったのに」
「……まァ、なァ」
めくるめくハガネとの衝突が、あのような形で幕引きとなったのは、確かに残念至極。
しかしながら、お陰で次の楽しみへと繋がった。
再び刃を交える時は遠慮無く『深度・参』を使わせて貰う。
なんなら、少し前に思い付いた『縛式・纏刀赫夜』の更に上も添えて。
「ハハッハァ」
何より、今日の交流会では大きな収穫も得られた。
「ハガネの奴は実力の二割も出しちゃいなかった。俺の登る道には、もっともっと先がある」
シンゲン氏は明らかにハガネと同等の実力者だし、カルメン女史も只者ではない。
それに五位のアメリカ人や六位のロシア人、あと
Dランキングの順位は単純なクリーチャー討伐ポイント以外にも、ダンジョン攻略に於ける貢献度なんかも加味されるそうだし。
つまり。
「あんな連中が束になろうと、攻略どころか最深部まで辿り着けすらしねぇ難度十ダンジョン……あぁ、期待度絶大! 足を運ぶ日が待ち遠しいぜ!」
「……夫婦の決まり、その一。当分、難度十ダンジョンに行くの禁止」
マジかよセンセー。
当分て、具体的にどのくらいっすか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます