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 上段から振るわれる神速の斬撃を、手の甲で受け流す。


「!」


 間髪容れず刃を返し、逆再生じみた軌道に切り替えたハガネの瞳孔が少しだけ揺れた。


「……器用なの、ね」


 そっと刀の腹を押し退け、太刀筋を逸らす。


 無惨に切り崩された先程のラッシュとは明白に異なる、柔の拳。

 しかも、だ。


「パクパクですわァ」


 骨子を食い取り、俺好みにリファインさせて貰った。

 五千以上の連打を捌く姿を五感全てで拝めば、猿でも精髄を盗める。


「こんな身体の使い方があったとはな」


 既存の武術などは粗方修めているものの、あれ等は常人が常人相手に扱うことを想定した技術体系に過ぎない。

 スキルという超常の力により一般的な規格スケールを外れた探索者シーカーが、形状も性質も千差万別なクリーチャーと戦うための体術は、事象革命から半世紀近く経った今でも発展途上甚だしい。


 故にこそ――切っ掛け次第で、まだまだ劇的な進歩を望める。


「感謝するぜ。雪代萵苣」


 過去、観漁った全ての探索者シーカーの戦闘記録や技術指南動画を遥かに凌ぐ完成度。

 そいつを間近に出来たお陰で、大幅なアップデートを果たせた。


「今なら青木ヶ原のアステリオスも技術ワザだけで転がせそうだ」

「ッち……」


 様変わりした、なんなら今も四半秒毎に更新し続けている俺の戦闘スタイルに、ハガネの対応が半歩鈍る。


 次は此方が間隙を突く番。

 もう治ったが、斬り落とされた腕の借りはキッチリ返させて貰う。


「はい刀ァ没収〜」


 手首を蹴り付け、得物を引き剥がす。


 柄を握った瞬間、理解した。やっぱコレ刀身が折れててもわ。

 短絡的に壊さず正解。危うく自らの首を絞めるところだった。


「そうなりゃそうなったで面白いけどな」


 長刀を逆手に持ち替え、床へ突き立てる。


 すげぇ斬れ味。水に浸すみたく刃本まで貫いちまった。

 すり抜けに等しい手応え。摩擦係数が限り無くゼロに近い。

 使い熟せる技量さえあれば、コイツ以上の刃物など存在しないだろう。


「同じ剣工の作品として是非とも樹鉄刀と競り合わせてみたかったが、一身上の都合につき今日のところはステゴロだ」


 絡み付くような関節技を振り解き、鳩尾にボディブローを見舞う。

 掌で受け止められたものの体重の軽さが災いし、浮き上がるハガネの肢体。


「歯ァ食い縛りな、レタスちゃんよォ!」


 好機到来。

 零距離からの前蹴りを、細面の顎に叩き込んだ。





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