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「首ポロは初めて試したが、マジで死なねぇのな。ウケる」
首を回して具合を確かめつつ、一旦『豪血』を解く。
ちょいと血を流し過ぎた。もう『深度・弐』は控えるべきか。
参るぜ。ただでさえ今は樹鉄刀が無いから、消耗を抑えるための内在エネルギーを血管内に混ぜ込めねぇってのに。
「増血薬……げ、期限切れだコレ」
微妙に褪せて見える薬液で満ちたフラスコを放り投げる。
前も一本、駄目にしたんだよな。何せ『錬血』が使えるようになって以降、飲む機会自体だいぶ減ったし。
「ぷぎゅっ」
あ。倒れてた
しかも後頭部。
「悪り――」
思わず肩越しに振り返った。振り返ってしまった。
直後。最大級の危険信号が、背筋を冷たく駆け抜ける。
「――鉄血」
咄嗟も咄嗟、静脈に青光を奔らせる。
「あっぶねぇぇ」
ほぼ抵抗無く、指先から肘まで裂けた左腕。
が、僅かに太刀筋を逸らすことは能った。お陰で間一髪、免れた。
今のを防げてなかったら、そのまま微塵切りコースだった。
成程。殺しても死なないなら、死ぬまで殺し続ける腹積もりか。
確かに百回も千回も斬り刻まれれば、いくらなんでも死ぬだろう。失血で。
「ハハハハッ。いいなぁアンタ、完全に俺を殺す気だ」
「……? 殺す以外に……刀を抜く、理由……知らない、わ」
「ハハハハハッ!」
完璧な回答。
俺やヒルダと同等、或いはそれ以上に暴力や殺戮への呵責が無い。
「善哉善哉。ホント、なーんで樹鉄刀を持って来なかったかな」
コイツならば、もしかしたら俺の全身全霊――『深度・参』と渡り合えるやも知れんってのに。
アレは『鉄血』を同深度で併用しなければ、恐らく発動させただけで肉体が塵と化す。
即ち樹鉄刀が無ければ、纏刀赫夜を纏っていなければ、そもそも使えない。
「あー勿体ねぇ」
いっそ『ウルドの愛人』で過去を差し替えて樹鉄刀を持ち出そうかと思ったが、なんとなく気が乗らないのでやめておく。
……ま、いいか別に。無いなら無いで。
「さて。どうやらアンタ相手に力や速さで攻めるのは暖簾に腕押しみたいだな」
先の差し合いで、ハガネの身体能力は凡そ測れた。
小柄な体躯の割には怪力だし、反射神経も常人離れしているが、どう考えても『豪血』状態の……否、素の俺にさえ劣る程度。
つまり技巧だけで、圧倒的なフィジカル差を容易く埋めている理屈。
極致に達した技術は魔法やスキルと区別が付かない、なんてのは何処で聞いた言い回しだったか。
「……んー。よし」
青光宿る『鉄血』状態のまま、構えを取る。
左腕は既に繋がった。鋭過ぎる太刀筋が幸いしたな。
「ひとつ技比べと洒落込もうぜ」
「…………面白くない、冗談、だわ」
辛辣ぅ。
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