330・Rize






〔ハハハハハハハハッ! ヒハハハハハハハハハッッ!!〕


 モニター越しに響く月彦の高笑い。

 殆ど狂ったような声音。まあ実際イカレてるけどアイツ。


 兎も角、普段なら取り立てて珍しい姿でもなんでもない、ごくごく有り触れた光景。


 ……胴体の足元に転がった生首状態じゃなければ。

 赤から青に変わって行く血の色が、目と精神衛生に優しくない。


「あんの馬鹿」


 噛んでいたガムを吐き捨て、口の中で毒づく。


 ちらと横を見れば、クレス大叔母様の顔が引き攣ってた。

 この人のこんな表情、初めて見る。


〔ンン? ンンンンン? どうしたよ、おチビさん。なに面食らってんだ、えェ?〕

「すげぇ、ハガネが引いてるぞ。二十年にいっぺんくらいのレアイベントだぜ」

「なんですか、あれ……スキルではないと仰ってましたけど……」


 ざわめく室内。

 寛いでいたソファから立ち上がり、モニターに食い入る一桁シングルランカー二人。


 ちなみに職員の人は、月彦の腕が斬られた時点で気絶した。


「リゼちゃん。差し支えなければ、教えて頂いても?」

「……まあ、別に口止めとかはされてませんし」


 正直めんどくさい。

 そんな億劫を呑み込みながら指先の空間を歪ませ、時間経過も容量限界も存在しないポケットを開く。


 そうして取り出したのは、赤い糸の束。

 私の血を含ませた――アラクネの粘糸。


「これと同じものが、月彦の全身に」


 張り巡らされている。より正しくは取り憑いてる。

 樹鉄刀を造ったクリエイターの擁する、物質憑依技術によって。


 平たく言えば神経、血管、筋肉、臓器、骨格など、全身を髪の毛よりも細く、ワイヤーよりも遥かに頑丈な粘着性の糸が余さず繋いでるイメージ。


 さっき回復薬ポーションを飲んでた時くらいのダメージは、流石にだけじゃ時間がかかるみたいだけど……ある程度の原型を留めた損傷なら、立ち所に復元する。

 粘糸は幽体だから物理的な手段では切れない。仮に聖銀なんかの対幽体物質を持ち出そうと、私の血を介す形で亜空間に存在を隠してるあため、異なる位相に干渉する術を持たなければ触れもしない。


〔はい、ふっかァつ。タネも仕掛けもありますよ、ってか?〕


 首を拾い上げて胴に乗せた月彦が、また嗤い始める。


 …………。

 酷く大雑把で、力尽くも大概な不死モドキ。

 身体への負荷なんて最初から計算外。まさしく狂人の思い付き。


 良い子も悪い子も、くれぐれも真似しないでね。普通は施術時と施術後の激痛に耐えかねて惨たらしく死ぬから。

 月彦曰く「数万匹の蟻に絶えず体内を齧られてるような感覚」だとか。


 想像するだけでグロ過ぎ。てかキモい。

 逆にアイツは、なんで平気なのよ。





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