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医学本の挿絵にも載せられそうな、惚れ惚れするほど滑らかな断面。
尤も呑気に見惚れてたら失血死は免れないため、筋肉で無理矢理に血を止める。
「……変な、手応え……金属……サイボーグ?」
一方、無表情、無感動、無感情に虚空を仰ぎ、殆ど独り言のように呟くハガネ。
主力たる『豪血』同様に使い続けた『鉄血』の副次効果。素の状態でも小口径の銃弾くらいなら表皮で止められる強度を得た肉体。
にも拘らず、紙を千切るみたいに斬りやがった。
あと誰がサイボーグだ。失敬な。
「わー、どうしよう。腕が、俺の腕が、うわー」
取り敢えず戯けてみる。
反応は無し。なんかリアクション返せや、スベッたみたいになるだろ。
「……面白くない、わ」
かと思えば、シンプルな酷評と共に迫る横薙ぎ。
屈んで躱すには低い太刀筋。しかし跳べば隙を晒してしまう。
当然、下がるのは論外。
故、受け止めることにした。
両手で。
「…………なに、それ」
ほんの少しだけハガネの目が見開かれる。
些かばかりブレた焦点。
あまり良く視えていないのだろう、リゼと比べて濁りの強い赤眼に映り込む、薄刃を挟み取る我が双掌。
「確かに斬った、のに……スキル?」
「違う」
元通り繋がった、青い血溜まりへと沈んでいた筈の腕。
スキルではない。それが可能な『ウルドの愛人』は使っていない。使う気も無い。
そして厳密に言えば、こいつは治癒や回復の類ではない。
「例え手足を捥がれようと戦闘は続けられるが、流石にパフォーマンスは落ちるんでな」
常時万全の状態で戦いに臨むなど、所詮は夢想。
されど、その夢想に近付くための努力は尽くすべきで。こいつは俺なりに出した回答、死の間際まで最大限に闘争を愉しむための仕込みってワケだ。
リゼには正気を疑われたが。
「見てな」
改めて考えたら下手に折るのは却って危険だったため、何もせず白刃取りを解く。
次いで左手首を掴み、強めに引っ張る。
キリキリと、とり憑かれている俺だけに聴こえる張り詰めた音。
まだ接合の甘かった断面同士が剥がれ、露わとなる傷口。
「だけれど離せば、御覧の通り」
再び寸分違わず合わさる骨肉。
併せて五指全てで握って開いてを繰り返す。既に違和感は微塵も無い。
「腕だけじゃねぇぞ」
脚も、胴も、内臓も、全て同じだ。
「なんなら」
カラクリを明かすついでの余興に、己の首筋へと手刀を宛てがう。
そして──
「頭だって」
――自ら、刎ね飛ばした。
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