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「――るぅ、アアァァァァァァッッ!!」


 咆哮搏撃。

 床の装甲板に亀裂が奔る勢いで踏み込み、ハガネとの距離を詰める。

 このまま間合いを保つなど、自殺行為に等しいからだ。


 良く分かった。奴自身は勿論のこと、あの刀も攻撃性能に限って言えば相当ヤバい。

 半光速で迫る剣尖。そんなもの、いくら『深度・弐』状態の『豪血』だろうと反応出来ん。太刀筋の延長線上に入った時点で詰む。


「懐、いただきィ」


 故にこそのインファイト。

 至近距離ならリーチの優位性は立ち消え、文字通り無用の長物と化す。


 況してや、アレは攻撃以外を全く考えていない、完膚無きまでの一点特化。

 いざ守勢に回ればガラクタ以下、足を引っ張るだけの枷と成り果てよう。


「ちゅう、ちゅう、たこ、かい、なァッ!」


 口遊む間に撃ち放った、通算五千を上回るジャブ。

 ハンドスピード重視で単発毎の威力は精々拳銃程度なれど、人体を磨り潰すには充分。

 

 さあ剣士サマよ、どう凌――ぐ――?


「…………オイオイオイオイ」


 生じた残像、無数の拳が掻き消える。


「マジか、オイ」


 ひとつ残らず捌き切りやがった。

 このショートレンジで。刃渡りだけでも五尺は下らない、余程の達人だろうと振り回すことすら覚束ない、極薄刃の長刀で。


 論を俟たず剣聖級、或いはそれ以上の異次元に達した技巧。

 刃筋をズラし、ヘシ折ってやろうと織り込んだフェイントの数々も容易に見切られ、バツが悪いったらありゃしねぇ。


 ――しかも、だ。


「流石に大雑把が過ぎたかね」


 一拍遅れて飛び散った、夥しい量の血飛沫。

 宙を舞い躍る赤が、空気に触れて瞬く間、鮮やかな青へと染まり行く。


 突かれたのは、刹那にも満たざる間隙。連打の終わり際、呼気と吸気の入れ替わり。

 動こうにも動けぬ六徳の空白にピタリと合わせて――両腕を、斬り落とされた。





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