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姿勢を低く、低く、四つ足となる。
同時。百分の一秒前まで首があった位置を、高音伴う斬撃が疾り抜けた。
「『飛斬』かァ?」
「違う、わ」
だろうよ。アレの
てか実のところ、もうネタは割ってる。
初太刀の時点で。
「伸びるのな。それ」
どんなに遅く見積もっても、落雷時のリターンストロークに匹敵する速度での伸縮。
完全索敵を『深度・弐』状態の『豪血』で強化し、漸く違和感が拾える超スピード。
約一マイル四方の稼動試験場を、刀一本にて両断したカラクリ。
だが真に驚くべきは、そこじゃない。
極限まで研ぎ上げられた単分子の刃。
その斬れ味を殺さぬよう、可能な限り薄く造り込まれた刀身。
恐らく、攻撃の際に刃筋が僅かでもブレれば容易く砕けてしまうほど脆弱。
軽く振るうだけでさえ、制御を誤れば慣性に耐えかね、折れるだろう。
しかも長く伸ばせば伸ばすほど、求められる完璧のハードルは跳ね上がる道理。
あんな代物を武器として、刀として成立させている時点で、神業と呼んですら過小評価も甚だしい技量。
「……奇剣『転生刀・
「奇剣? 成程、やっぱり果心の作品か」
根底にあるデザインセンスが樹鉄刀に近い。
何より、斯様なトンデモ機構を組み込めそうな技術と知識の持ち主、少なくとも俺は他に知らん。
「素材は何だ」
「竜の翼膜……百枚重ねても……紙より、薄くて……綿より、軽い」
ほほう竜。生命力が埒外で、ドロップアイテムと化しても尚、武器に加工されても尚、生きているケースがあると聞く。
俺が魔界都庁で倒した竜モドキ共の素材は残らず死んでたけど。きっと弱過ぎたんだ。
「伸縮速度は……たぶん、光の半分、くらい……射程距離、は」
内部で翅脈のようなものを波打たせる長刀が、斜め上に仰角を取る。
そのまま刀身が天井を貫き、完全索敵領域を越えても止まらず、際限無く伸びて行く。
伸長に約三秒。収縮にも約三秒。
延べ六秒の後、元の長さとなった切っ尖には、穴だらけの歪な石が突き刺さっていた。
「……そりゃ、まさか」
「月の石」
フロアひとつ、建物ひとつなど児戯同然。
やろうと思えば、この
小さな手の中で石を弄ぶ姿は、そう告げているかのようだった。
…………。
「ハハッ。ハハハハッ。ハハハハハハハハッッ!!」
ファンタジーかよ。最っ高だわ。
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