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 なんと言うか。俺は今、一種の感嘆に似た情動すら覚えていた。


「ハハッハァ。いやはや、すんげぇなオイ」


 元の形に繋がるべく、階全体が揺れ動く。

 事実か誇張か知らんけど、戦術核を放り込んでも問題無いとまで謳われる稼動試験場が、ただので真っ二つとなった証左。


 ……『流斬ナガレ』に『空間斬』を混ぜ込めば、リゼにも同じことは出来るだろう。

 単純にブッ壊すだけなら、先の通り、俺にも能う。


 が。これは違う。

 物質の強度を無視する類のスキルなど使っておらず、身体能力によるゴリ押しですらない。

 純粋な技術ワザを用いた上での結果だ。


「剣術の指南動画は何百と浚ったが、は心当たりがねぇな。しかし我流と呼ぶには個人的な創意工夫の範疇を超えた錬磨、歴史の累積を感じさせる。流派の名を聞いても?」


 馬鹿でかい扉越しの一閃。破壊と呼ぶには綺麗過ぎる斬撃痕。

 刻んだのは身の丈より長大、かつ向こう側が透けるほど薄刃の、どこか翅に似た長刀を担ぎ、てくてくと此方に歩いて来る少女。


「……型……? わたしが……見えてた、の?」

「聞いてんのは俺……まあ別に構わんけど。質問に答えるならノーだ。だが『豪血』を使ってりゃ、このフロア内で起きてる事象の掌握くらい容易い」


 否。奴は設立以来メンバーの追加も脱退も行われていない六趣會の一員。最低でも五十路前後の筈。

 探索者シーカーってのは上に行くほどスキルの不老効果だったり、逆に強力過ぎて老いを招くスキルだったりの所為で、見た目が判断材料とならなくなる。


 …………。

 どーでもいいか。歳なんぞ。


 俺にとって重要なのは――あちらさんが俺と戦う気だ、ということだけ。


「藤堂月彦。アイサツは大事だぜ、センセー」

「……六趣會……『畜生道』ハガネ……雪代ゆきしろ萵苣ちしゃ


 二本目の二級ミドルランク回復薬ポーションを飲み乾し、あちこち骨が突き出た左腕を治療。

 こういう怪我を直接回復薬ポーションで片付ける際は、一線級の探索者シーカーが泡吹いて気絶するほど痛いらしいが、俺は痛みを苦と捉えないから平気。


「よし癒えた。んじゃ始めるか」

「……そう、ね……久々の……餌……楽しみだ、わ」

「ハハハハハッ!」


 餌。言うに事欠いて餌。

 だが生憎、こちとら皿に盛られたシリアルとは違うんでな。


「食えるもんなら、よォ……食ってみやがれやァッ!!」





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