325・Rize
「がははははっ! やるじゃねぇか『魔人』のアンちゃんよぉ!」
月彦が
残る私達は別室のモニターで、その一部始終を見ていた。
「どうか国際問題になりませんように、どうか僕の監督不行届になりませんように、どうか責任押し付けられてクビになりませんように、どうかどうか神様仏様――」
寛ぐ此方を他所、青褪めた顔で必死に祈る支援協会職員の人。
御愁傷様。
「公表されてる映像データ通りのフィジカル型ですねぇ。シンゲンさんと、どちらが強いですか?」
「そら俺様だろ。こちとら泣く子も黙る世界一よ」
クレス大叔母様の問い掛けに対し、当然の如く己を指す筋肉達磨。
六趣會『地獄道』シンゲンと言えば、素手の打ち合いなら地球最強とまで評されるほどの武闘派。
であれば己の強さに絶対の自負を抱いているだろうし、その矜持は純然たる事実だ。
……だけど。
「でも、なぁ。ありゃ伸びしろが服着て歩いてるようなもんだぜ」
月彦が誰かに遅れを取る姿なんて、私には想像すら出来なかった。
例え相手が、人外の領域に立っていようとも。
「それに『魔人』のアンちゃんはハガネと同じ、気分次第で力量が跳ねるタイプだ。奴さんの場合、
喜怒哀楽の分かり難い表情で顎をさすり、眉根を寄せる『地獄道』。
「ちと相性悪いか。ガチで
「ですかぁ」
「うむ」
頷き合う二人。
と。モニターの向こうから爆発にも似た轟音が響き、スピーカーを劈かせた。
〔足んねェ! 足んねェ足んねェ足んねェ! 真面目にやってんのか、あァ!?〕
小型ミサイルの直撃程度ならビクともしない装甲板を素手の『豪血』で再び殴り壊し、グチャグチャに砕けた腕を構いもせず叫ぶ月彦。
あーもう。また癇癪が始まった。
〔攻撃に篭めた気概が半端だから無様晒すんだよォ! 殺す気で来やがれ! 後先なんざ考えるな、ブッ殺せ! 生きてたら儲けもんだァ!〕
振り切ったテンションの所為で、とんでもない滅茶苦茶言ってる。
「……こりゃ、根本的な気質の面でもハガネと同類だわ」
「善悪の垣根を踏み倒した、御自身の価値観と快不快だけが唯一絶対の判断基準であるナチュラルボーン・ビースト、ですねぇ」
要は、たまたま人の形で生まれただけの猛獣ってことね。とっても同感。
…………。
「あの、クレス大叔母様。今まさに話題を向けられているハガネさんが見当たらないのですけれど」
「あら? まあ本当、一体何処――」
不意に鼓膜を刺す高音。モニターの映像が一瞬、途切れる。
復旧した後、空間投影ディスプレイに映し出された光景は――目を疑うものだった。
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