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「リゼちゃん。月彦くんも」
思わぬ事実にショックを受け――少し考えたら別にショックを受けるようなことでもなかったのでポケーッとしていたら、カルメン女史が俺達に向き直り、佇まいを改めた。
「もし宜しければ、六趣會に二人の席を用意させて頂けませんか?」
……あー、来たか。
「リゼちゃんは『天狗道』、月彦くんは『外道』ということで」
それ、どっちも意味合い的には同じだった気がする。
枠が無いからって強引な。
「〔待たれよカルメン殿。『死神』の力は未踏破のダンジョンを数多く抱えた我が国にこそ必要。抜け駆けは遠慮願いたい〕」
どう断るか思案を巡らせていたら、硬っ苦しい調子で
確かに中国のダンジョン事情を鑑みれば、万全状態の兵隊を深層まで送り込めるリゼの空間転移能力は喉から手が出るほど欲しかろうよ。
「〔ただ『魔人』は要りません。其方は好きにどうぞ〕」
「〔おうコラ。要らんとはなんだ要らんとは〕」
誘われたところで応じる気とか一ミクロンも無いけど。
「〔獣に軍属など不可能だろう。あと単純に貴様が嫌いだ〕」
んまあ正直。しかも反論出来ねぇ。
社会主義国家たる中国の
聞けばロシアやアメリカも、同じように軍と
三国の何れかに生まれてなくて良かった。
……と言うか。
「〔リゼにだって軍隊生活なんざカタツムリだぞ〕」
「〔カタツムリ……?〕」
おっとアプリの翻訳ミス。
まあいい。兎に角、集団行動を厭うリゼが軍人とか冗談にしたってクオリティ低過ぎ。
ファッションにも拘りのある女だし、恐らく軍服を着せる時点で至難の業。
縦しんば何かの間違いで籍を置いても、脱走まで丸三日保てば奇跡だ。
第一、日本人が中国軍に入れるのかよ。んな話、聞いたことねぇぞ。
「〔『死神』殿。此方、軍当局の提示した条件になります。お目通しを〕」
俺の疑念を他所、リゼを中心に展開される九つの空間投影ディスプレイ。
映っているのは幾つかの図解と、読み易い書式で並んだ文字列。
見た感じマンダリン。元が北京語ゆえ
しかし公文書となると面倒なので、アプリを網膜適用した。
「中々の好条件ですねぇ」
横から文面を指先でなぞりつつ、感心した風にカルメン女史が呟く。
いや全くだわ。
名誉称号だとは思うが大校の階級。更には多様な特権の数々。
軽く眺めただけで、相当な大盤振る舞いが窺えた。
――ただ。ひとつ論うなら、日本語に訳すべきだろ。
「ねぇ。読めないんだけど」
何せリゼの奴、腕輪型端末にトランスレーションアプリ入れてないからな。
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