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「すやぁ……むにゃ……」


 恐らくだろう長刀を抱え、椅子の上で身体を丸めて本格的に寝入るピンク髪。


「さんざっぱら食い散らかした挙句、また寝るんかい。やりたい放題だなオイ」

「アンタより傍若無人な奴とか初めて見たわね」


 しかも何が驚きって、このチビさんエンゲージリング嵌めてんだよ。

 え、結婚してんの? これと? 誰が?


「物好きは居るもんだ。相手の苦労が偲ばれるぜ」

「いえいえ、寧ろキョウくんの傍だと可愛らしいんですよぉ?」

「逆に言やぁアイツが居なけりゃロクすっぽ会話も成立しねぇけどな。今日だって本当なら一緒に来る筈だったんだが、ジャッカルと灰銀の奴等がなぁ……」


 どうやらピンク髪と同じ一党らしい大叔母様と大男が、ボーッとしていれば擁護と受け取れなくもないような台詞と共に、慣れた手際で空の食器類を片付け始める。


 …………。

 一桁シングルランカーが三人も揃ったチーム、ね。

 そんなもん俺の知る限り、世界に一組しか存在しない。


「成程。アンタ達が音に聞こえた『六趣會ろくしゅかい』か」

「〔いや今更か。流石に冗談だろう貴様。同じ日本人のくせに何故すぐ分からんのだ〕」


 パーティ名と実績くらいは耳に届いてたが、各者の顔と名前を知らなかったんだ。

 そもそも基本、あんま他所様に興味ねーし。






 六趣會とは、およそ三十年ほど前。事象革命直後の世界が最も混沌としていた時期を越えたあたりから、破竹の勢いで名を上げた探索者シーカー集団だ。


 構成人数は僅か六人。

 気が向いた時しか攻略に臨まず、一年近く消息を絶つことも珍しくない、謎多き一党。


 されど、その実力は本物。

 国内八ヶ所の難度九ダンジョンを主な狩場とし、男鹿鬼ヶ島除く七ヶ所が攻略済み。

 重ねて言うなら、今年に初踏破された首里城含む四ヶ所は、そも彼等が拓いてる。


 斬ヶ嶺鳳慈亡き現在いま、誰もが認める日本の、延いてはアジア圏のトップパーティ。

 世界的に見ても、イギリスの『ブラックマリア』と評価を二分するとか。


「そんなビッグネームの一角を、まさかリゼの御親族が担ってたとは。想像もしなかったぜ、全く世間は狭い」

探索者シーカーネームはカルメン。本名をクレスセンシア・榊原・クドリャフツェフと申します」


 すげぇ名前。言語圏ミックスジュースかよ。

 結局どこの国の人なんだ。


「仲良くして下さいね。月彦くん、と呼んでも?」


 どうぞ勝手に。

 しかし。


「お前と愛想レベルが雲泥の差だな。本当に親族か?」

「……間違い無く血縁関係ですよ。そんな風に仰られると悲しいです」

「ぶふ、げふっげふ」


 唐突お嬢様ムーブやめれ。笑っちまうだろ。


「ふふん……ま、血の繋がりが薄いことも確かだけど。あの人、父方祖父の長姉だし」


 四親等。ほぼ他人。

 つーか歳いくつだ大叔母様。不老効果の備わったスキルって怖いわ。





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