318
指を鳴らす。
直後。押し込み強盗が入った現場の十倍は酷い有様だったミーティングルームは、俺が扉を蹴破る前の綺麗な状態へと戻り行く。
より正しく述べるなら、そも扉を蹴破らなかった過去に差し替えた。
便利で困るぜ『ウルドの愛人』。
「いやァ申し訳ない。職員の方も居られることには気付いてたんですが、茶目っ気に抗えず」
「は、はぁ……て、え、あれ!?」
過去の痕跡ごと差し替えてしまえば、折角の挨拶が意味を成さなくなる。
故に居合わせた面子の記憶は留めたまま、起きた出来事だけシフトした。
「なんだ、こりゃ。時間回帰のスキルか?」
「いえシンゲンさん、時を弄ったなら私が分かります……なんでしょう、もっと根本的な部分に触れた異能だと思いますけど」
「〔『魔人』と『死神』、どちらの仕業だ……?〕」
必然、狐に化かされたような顔で室内を見渡す
こいつぁ面白い。手品師の気持ちが分かるってもんだ。
「…………すやぁ」
約一名、驚くどころか目覚めもしねぇピンク髪のチビが居るけど。
なんなんコイツ。
「えーっとぉ。では、リシュリウさんと
七人全員が席に着いて一拍。リゼ曰くの大叔母様とやらが、そう音頭を取る。
ひとまず俺も空席を借りる形で腰を下ろした。
色濃い儒教文化圏の生まれとあって、上下関係や礼節に煩そうな
「もひとつ空きあるし、職員さんも掛けられたらどうすか? 立ちっぱなしは疲れるでしょ」
「えぇ!? いえいえいえいえ結構です畏れ多い! 寧ろ帰りたいくらいで!」
よくよく見れば緊張で今にも倒れそうな顔色。
宮仕えも大変だな。いっそ俺を逆ナンしてきた受付さんと代わって貰ったらどうよ。あの人かなり神経太そうだし。
「ふふっ。まあ始めるなんて言っても、そう大袈裟な集まりじゃありませんけどね」
「うむ。毎回、皆で持ち寄った菓子やら料理やらを摘みながら駄弁ってるだけだしな」
そう言って円卓に飲食物を広げる大叔母様と大男。
それに倣う形で他の面々も、各々の圧縮鞄から手土産を引っ張り出す。
割とアットホームな会合なのね。交流会て、文字通りのニュアンスだったんかい。
「〔暫し、お待ち願う〕」
取り分け意外な動きを見せたのは、
下拵えを済ませた食材、及び魔石コンロなどを並べ、その場で手早く調理し、各人への配膳まで行っている。
持て成しの精神に満ち過ぎだろ。反日主義はどうした。
「〔御召し上がり下さい、ハガネ殿〕」
「…………むにゃ……寝てない、寝てない、わ」
ピンク髪が起きた。
いや待て、アイツ寝ながら食ってるぞ。なんて意地汚いんだ。
「〔……貴様も食え。あぁ、そっちの小籠包には海老が入っている。アレルギーは?〕」
「〔至れり尽くせりかアンタ。やめろよ、そう礼儀正しくされると乱暴な真似した手前、居た堪れなくなるだろ〕」
礼には礼、無礼には無礼、が俺のモットーなんだぞ。守るかどうかは気分次第だが。
クソッタレめ。こうなりゃ目にモノ見せてくれるわ。
「リゼ。例のアレを出せ」
「えぇ……私のオヤツなんだけど……」
不承不承、リゼが開いた亜空間ポケットより現れる箱。
軍艦島攻略に際し、長崎で買った半熟生カステラ。
烏骨鶏の比ではない濃厚な旨味を持つコカトリスの卵を使った最高級品だ。
値段は知らんけども。
「さあ味わってくれ。ンまいぜ」
「…………おいし」
一瞬でピンク髪に全部食われた。
ホントなんなんコイツ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます