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「ご無体な、ご無体な。どうか御赦し下されプリンセス、老い先短い爺やの冥土の土産に御座いまする」

「はいはい、メイド服なら今度着てあげるからキビキビ歩く」


 そんなもん誰が頼んだよ。似合うと思ってんのか愛想ゼロの分際で。

 ちくしょう、まともに相手する気ねぇなコイツ。


「ぅるる……何も深層に足を踏み入れようってワケじゃなかったんだぜ? 折角、難度十ダンジョンに入る資格を得たんだから、ちょこっとどんなもんか見てみたかっただけで」

「ふーん」


 素晴らしい生返事。俺氏、信用低過ぎ問題。

 いやまあ実際ちょこっとで済ませられる自信は皆無だけども。皆無なことに自信満々だけども。


「ええい離しやがれ! 俺は行くんだ、未だ誰一人として辿り着けずにいるダンジョンの最果てに!」

「なら振り払えば?」


 それが出来ないと承知の上で、なんたる言い草。

 手首から肩までの関節を残らず外そうと全く抜けられず、力尽くを図ればリゼが怪我をする。この女、そういうやり方で腕を極めているのだ。

 底意地悪い根性曲がりめ。お手上げだっつーの。


「ふふん」






「ミーティングルーム、ミーティングルーム……ああ、ここね」

「お。開始時刻きっかりだな」


 音も揺れも殆ど無いエレベーターに乗り、柔らかな絨毯が敷き詰められた廊下を往き、到着した目的地。

 いやマジ広いわ日本本部。受付で案内人を付けてくれるよう頼むべきだった。


「じゃあ月彦、あとよろしく」

「あいよ」


 やっと解放された右手を軽く曲げ伸ばし、両開き扉の前へと立つ。


 高級品に多いチョコレートを思わせるデザインの、重厚なドアパネル。

 向こう側には、幾つかの人の気配。


 これ一枚隔てた先に、世界のトップランカー達が待ってるワケだ。

 面子の半分は日本人らしいけど。


「さぁ、て。やっぱりは大事だよな」


 人間関係に於いてファーストコンタクトで抱かれたイメージは、基本的に死ぬまで尾を引くもの。

 そして第一印象とは大半が容姿と身嗜み、何より挨拶で決まる。


「リゼ。要は今日の集まりで向けられるだろう勧誘を残らずカットすりゃ良いんだな?」

「そうね。一桁シングルランカーの誘いを断ったとなれば、他も二の足を踏むようになるでしょうし」


 で、方法は俺の好きにして構わない、と。

 オーケー任せな。


「豪血」

「は?」


 一瞬だけの『豪血』発動。

 動脈を駆け抜ける赤光。併せて五体を余さず充たす人外の膂力。


「ちょ」


 ほんの軽く前蹴りを放つと――ダンプカーでも突っ込んだみたいな勢いで、扉は爆散した。





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