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今回の
で、その日本本部が何処かと言えば、栃木県那須郡那須町湯本。
管轄とするダンジョンの名は、那須殺生石異界。
大嶽丸、酒呑童子と並ぶ日本三大妖怪の一角、玉藻前の化身として知られる名勝、殺生石を飲み込むようにゲートが現れた、この国唯一の難度十。
そこを二十四時間三百六十五日、一秒たりとも空白を置かず監視・観測することが主目的の施設。
探索者支援協会設立当初は都庁内の新宿支部が本部扱いだったそうだが、設備や立地の都合で十年くらい前に此方へ移転したらしい。
名実共々、日本
「すいません。アタック申請をしたいんですが」
日本ではDランカーと沈黙部隊以外が難度十ダンジョンに出入りすることは適わないため、必然的に市役所並みの静けさで包まれた、だだっ広くハイテクな建物内。
なるべく音を響かせぬよう注意しつつ、俺は受付窓口の女性職員に
「まあ。人違いでしたら申し訳ありませんが、もしや藤堂月彦様ですか?」
その通りだが声でけーよ、ねーちゃん。
しかも名前をフルネームで呼ぶな。見付かったらどうすんだ。
「新進気鋭のランカー様に声掛け頂けるなんて光栄です。記念に一枚よろしいでしょうか」
日頃より世話になっている支援協会の職員さんが相手では断り辛いため、SNSに上げないならと頷いたら、彼女は軽快にカウンターを乗り越え、俺と横並びで指輪型スマホのシャッターを切った。
おっとりした見た目に似合わず、結構アグレッシブ。
「ありがとうございます。ところで今晩空いてますか? 差し支えなければ一緒に食事でも」
ぐいぐい来るな、この人。アグレッシブ通り越して肉食系。
しかし生憎、今夜はつむぎちゃんとドライブの予定だ。峠攻めが気に入ったらしい。
つかアンタ仕事しろや。
「あー。取り敢えず申請、頼めます?」
「あらあら御免なさい私ったら。はい、大丈夫ですよ。では此方に必要事項の記入を」
ひょい、と再びカウンター奥に戻った職員さんが指先で何度かテーブルを叩くと、眼前に空間投影ディスプレイが現れる。
表示された申請書類に視線を走らせながら、俺はペンを取った。
「ほーるどあっぷ」
……正しくはペンを取る間際、肩を掴まれた。
細く色白で爪が黒く塗られた、馴染みありまくりの手に。
「〇九四八、容疑者確保」
錆びた所作にて振り返れば、そこには半眼で俺を見上げるリゼの姿。
クソッタレ、もう戻って来たのかよ。
「罪状。無断で難度十ダンジョンにアタック申請を出そうとした罪」
そのまんま過ぎるし、ちょいと長くないですかね。
「略して、どうせやると思ってた罪」
ハナから疑われてたんかい。
理解されてるってのも考えモノだわ。
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