313






「いい加減、金の置き場も手狭になってきたな……」


 壁一面、達筆過ぎて何が書いてあるか全く分からん護符で埋め尽くされた押し入れに陣取る、夥しい数の札束。

 適当に詰めといたにも拘らず整然と積んであるのは、棲み着いてる連中の仕業か。

 前、夜中に喧しかった一匹を素手で引き千切って以来、家の掃除が割増で丁寧になった気がする。


「チッ。銀行振込の登録が億劫なもんで現金受取にしてたツケか」


 そもそも口座番号覚えてねーんだよな。

 なんなら通帳もカードも、年明け頃に諸々の引き落とし用で纏めて数千万ほど突っ込んだきり、どこやったか忘れたし。


「どうすっか……銀行まで持ってくにしたって、運び出すどころか圧縮鞄に詰め込むのもダリィ……」


 大体これ、総額幾らよ。


 元からあった分に加え、青木ヶ原天獄の攻略報酬が

 更にスカイツリーと魔界都庁のダンジョンボス討伐特別手当が、それぞれ一億二千万と四億。


「天獄の時はヒルダも入れて三等分。スカイツリーは殆どリゼ一人だったから九対一で、逆に魔界都庁のフォーマルハウトは俺がタイマン張って――」


 指折り数え、勘定する。

 が、各ダンジョンで手に入れた魔石や不要ドロップ品の売払代金、延いては先日に軍艦島で八尺様を叩きのめした分の手当もあったことを思い出し、面倒臭くなってやめた。


「……樹鉄刀の改造費とか、防具の新造費とか差っ引けば、たぶん十五億くらいだな。うん」


 正味、大金に対する過剰な厭悪は、嘗てほど感じなくなった。

 て言うか、どうでも良くなった。


「しかし、ここまで増えると単純に邪魔だ。多過ぎ」


 減らそうにも、上手い使い道が思い浮かばん。

 家も車も持ってるし、装備だって既に新しいのを発注済み。他に何を望めと。


 バラ撒くにしたって、慈善団体への寄付は色んな輩に纏わり付かれそうだし、リゼは恐らく俺より金持ってるし、つむぎちゃんや甘木くんは非常識な額となれば頑と受け取ってくれねぇ。

 吉田の奴も、なんだかんだ俺にタカッたりしないし。


「うーむ」


 駄目だ、かったるいわ。

 また今度いつか、気が向いたら考えよう。


 蝋が利いた押し入れの扉をそっと閉じ、札束の山を記憶から追い遣る。

 生憎、こんな雑事にかかずらってる場合ではない。


「お待たせ月彦。支度出来たわ」

「りょーかい。んじゃ、行きますかね」


 我が家に持ち込んだドレッサーで化粧やらマニキュアやらを終えたリゼを引き連れ、いざ出発。

 今日は、いよいよ一桁シングルランカー達との顔合わせだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る