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繊竹と纏刀赫夜を除いた樹鉄刀の五形態は、形こそ違えど全て剣だ。
俺としては槍や弓なんかも使えれば面白いと思ったんだが、果心曰く無闇に方向性を広げると純度が落ち、却って性能を損なう恐れがあったらしい。
で。メタルコンダクターの蒐鉄に植え付けた刃物の概念を一番効率良く引き出せる形状は、やはり剣だった。
そもそも果心は剣工。奇抜な機構こそ組み込めど、その作品は悉く剣。
そこら辺の拘りと言うかアイデンティティ的な部分も合わさり、新生樹鉄刀『月齢七ツ』は今の在り方で完成した。
魑魅魍魎蔓延る魔境、五十番台以降の深層での戦いに主眼を置いて造られた名剣達。
その中でも曲式は――ある意味、最も奇剣と呼ぶに相応しい。
ウルミという武器がある。
インドの古武術カラリパヤット等にて用いられる、軟鉄を薄く長く鍛えることで鞭のようなしなりを得た長剣。
通常の刀剣では持ち得ぬ埒外な遠心力により、飛燕もかくやの剣速を生み出す代物。
反面、非常に扱いが難しく、操り損ねれば自身を刻んでしまいかねない危険物。
中学くらいの時、動画か漫画かで見て退屈凌ぎに練習したもんだ。
飛んでる蚊を両断出来るようになるまで、三十分くらいかかったな。
曲式は根本的にはウルミと同じ、長尺かつ柔軟な薄剣。
ただし刃渡りは十メートルほど。加えて、しなりの良さも斬れ味の鋭さも、大元とは比較にならん業物。
とは言え果たして、どれくらい違うのか。
そいつを滔々と語り尽くしたところで、怪物共には分かるまい。
然らば、百聞は一見に如かずってな。
「さぁーて。誰から踊りたい?」
手首のスナップを使い、ひゅん、と曲式の切っ尖で大きく真円を描く。
そいつを皮切り、攻勢へ移った。
「そこのピエロ。今、お前を賽の目に斬り刻んた。ちょいとでも動けばバラバラに――」
折角の忠告を無視し、後ろに退いた愚か者が、正方形の肉片となって崩れ落ちる。
息すら止めて微動だにせず留まっていれば、そうしてる間は生きていられたろうに。
「お、避けたか。だが惜しかったな、後方不注意」
次なる標的は黒い
期待通り、身体半分斬り飛ばすも急所だけはギリギリ外れた剣尖。それをUターンの要領で反転、背後より七度貫く。
俺の膂力と関節可動域の広さを活かせば、尋常では有り得ざる複雑怪奇な太刀筋を編むことも、絹並みに柔な剣身で刺突を繰り出すことも容易い。
流石に訓練は必要だったが。
具体的には三分くらい。
「ハハッハァ! 全く、間合いが広いってのは楽しいなァ!」
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
……昂りに流されるまま曲式を振るっていたら、いつの間にかクリーチャーが全滅してた。
あゝ無情。
「チッ……んだよ。良い塩梅にノッてたのによォ」
舌打ち混じり『豪血』を解き、樹鉄刀を
曲式は使っていて実に面白い形態なのだが、殲滅力が高過ぎて余程の相手でもなければ早々に終わってしまうのが難点。
やはり核式以外は深層限定だな。無双ゲーは好みに沿わん。
「ねぇ月彦」
はいはい、なんでしょリゼさん。
「その危なっかしい剣を好き勝手、全方位に振り回しておいて、間合いの中に居る筈の私に擦りもしないのは、この際まあいいわ」
はぁ。
「……馬鹿みたいにゴチャついた周りの建物にまで傷ひとつ無いのは、どういうワケ?」
分かりきったことを聞くのな、お前。
「クリーチャー以外に刃を当てなかったからに決まってんだろ」
要は道を歩く時、白線以外を踏んだらアウトとか、そんなレベルの他愛無いお遊び。
下らないと思いつつ、時折ついやりたくなるよな。こういうの。
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