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二十番台階層の夜街エリアを長らくの風雨にて荒廃させ、濃霧で覆ったような情景。
軍艦島四十番台階層、廃街エリア。海外発祥のネットミーム、クリーピーパスタ達が現世に形を得、席巻する魔の領域。
「ひー、ふー、みー、よ」
俺は今、エリア内でも特に構造が入り組んだ四十九階層の中心部に居る。
八方を取り囲まれた状態で。
「ハハッ。いいね、実に笑えるシチュエーションだ」
のっぺりとした真っ白な顔を、耳元まで裂けた真っ赤な口が彩る少年。
目の無い青褪めた仮面を付けた、猫背の男。
白黒衣装を着込む、異様に腕が長いピエロ。
ボロボロに汚れたピンクガウンを纏い、ぬいぐるみを抱えた血塗れの少女。標的リストに入ってる。
やたら目玉が大きな、痩せぎすで上半身裸の薄気味悪い女。こいつも標的。
金色に輝く糸を弄ぶ、全身漆黒の
……怪物にとって己以外の怪物は、やはり怪物でしかない。
故、縄張り意識の強さも手伝い、群れることを激しく嫌う筈のクリーピーパスタ。
それが一堂に会すとは。独りじゃ手に負えないバケモノでも出たか?
どいつもこいつも浮き足立った様子。
近場の適当な奴をジッと見据えたら、たじろいだ風に距離を取られた。
「態度悪りぃなオイ……ところで、こーゆーの、なんつーんだっけか。袋の鼠?」
樹鉄で覆われた両掌を擦り合わせ、ギャリギャリと火花を撒き散らす。
「あァ、いや、違うな――」
軽く指を鳴らした。
直後。俺の後ろに居たリゼが異形のナイフを構え、天目掛けて大きく振るう。
「――飛んで火に入る夏の虫、か」
赤とも黒ともつかない斬撃が、狂った笑い声にも似た風切り音を立て、空間ごと濃霧を切り裂き、打ち上がった。
マゼランチドリの限界である
その軌跡は上空で拡散。ドーム状に薄く伸び、帳の如く降り注ぐ。
逸早く危機を察したらしい何体かが血相変えて逃げ出すも残念、既に手遅れ。
境目へと触れた箇所がズタズタに斬り刻まれ、そこから先へは一ミリたりとも進めない。
ちょうどリゼの立ち位置を基点に、直径三十メートル程度を囲む赤黒い結界。或いは境界。
スキル『ベルダンディーの後押し』が齎す、本来は僅かでしかない空間の歪みを呪詛によって無理やり押し広げることで作り出した、侵入も脱出も不可能な断絶領域。
「逃げられたら追うのも面倒だしなァ。相棒が多芸で助かったぜ」
「……やっぱり
骨肉を削った疲労か、気だるげに溜息を吐くリゼ。
上等。そんだけあれば釣りが来る。
「豪血」
動脈を伝う、心身に馴染んだ赤光。
次いで両腕の樹鉄刀が脈打ち、溶けるように形を変えて行く。
別に核式のままでも殲滅には問題無いけれど、少し興が乗った。
対深層クリーチャー用に鍛え上げられた攻撃力の一端、お見せしよう。
「抜剣――『
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