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 薄暗い森の奥。鉄条網だらけの柵の先にある妙ちくりんな祠を壊すことで現れるクリーチャー、姦姦蛇螺。

 爬虫類の如き無表情、けれど眼差しだけは憤怒を湛えた六本腕の蛇女ラミア


〈アアアアァァァァッ!? イタイ、イタイ、イタイ、イヤァァァァッッ!!〉


 白皙の美女を象った、しかし標準的な成人女性の倍は大柄な上半身を鯖折りの要領で抱き締め、少しずつ力を篭めて骨も臓物も擦り潰す。


〈ヤメロ、ヤメロ、ヤメロッ……オネガイ、ヤメテ、ヤメテェェェェッッ!!〉


 おーおー、よしよし。ボロボロ泣いて、可哀想に。

 でも御免なー。今、無性に甚振りたい気分なんだよ。

 サディスティックが止まらない。自分じゃアンストッパブル。


「月彦」

「あァ? なーんでーす、がぶり」

〈ガッ……アガ、ガァッ……〉

「がぶり。がぶり」


 原形さえ留めずブッ壊した祠の残骸に腰掛けたリゼが俺を呼ぶ。

 悲痛そのものな音色で絶叫する姦姦蛇螺の喉笛を舐め上げた後、三度に分けて噛み千切り、咀嚼しながら振り返る。

 まっずい。蛇肉は大体が美味だってのに、コイツは食えたもんじゃねぇですわ。


「吐きそうだ。んで何用かねリゼちー」

「……先に血だらけの口、拭きなさい」


 おぉ、失礼。






 ガラガラと口を濯ぐ。

 えぐみが酷い。腐った魚の内臓でも煮詰めたみたいなバッドテイストだわ。

 腐った魚の内臓とか食ったことねぇけども。


「アンタって、女怪の素材で造った装備の性能を上限越えで引き出せるのよね?」

「ぺっ、ぺっ……ああ、らしいぜ」


 何を今更。だから、わざわざ軍艦島まで来たんだろうが。

 怪異・都市伝説系クリーチャーがメインのダンジョンは少ない。日本なら軍艦島以外だと、静岡のクワイエットヒルくらいか。


「つまり女怪と力の波長が合う、みたいな解釈で良いのかしら?」

「ン? あー」


 まあ、そういう捉え方も出来るな。

 どうしたよ。思案顔なんぞ浮かべて。


「……八尺様が矢鱈とアンタに執着してたのも、その所為?」

「ほう」


 改めて考えてみりゃ、無くもない話だ。

 つか、何故に段々、表情が渋くなってんだ。


「ねぇ月彦」


 はいはい月彦さんです。

 御用件をどうぞ、シルブプレ?


「――ここでカタストロフが起きた原因って、もしかするとアンタの影響で女怪連中が活性化して、ダンジョン全体のバランスが崩れたからじゃない?」


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


「よし休憩終わり。次は二十四階層あたりでスラッシャー引っ掛けに行こうぜ、直通便プリーズ」

「……そうね。今、繋ぐわ」


 やべえ。普通に否定しきれん。

 アレだわ。一応、帰る前に八尺様倒しとこ。





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