308






「ヘイ、リゼちー。俺達が獲りに来たドロップ品を教えてくんなまし」


 大鎌はメンテナンス中、スライムスーツはチューンアップ中につき、代用装備としてロックバンドの女性ボーカルみたいな服にマゼランチドリを佩いたリゼの肩を揺する。

 振り払われた。


「音声サービスじゃないのよ、私は。腕の端末は飾りなワケ?」


 それもそうだ。


「あと前にも言ったけど、籠手で私に触らないで」


 いちいち外せと仰るか。めんどくさ。

 心配せずとも果心がキッチリ調整してくれたから、俺に害意が無ければ触ったところで髪の毛一本斬れねぇっつの。

 つまり。


「お前が樹鉄刀で怪我するとか絶対に有り得んぞ」

「そんなの分かってるわよ」


 亜空間ポケットから取り出した板ガムを咥えながら、赤い瞳を俺へと向けるリゼ。


「籠手越しに触られること自体が嫌なの」


 ですか。






「あー、と……悪皿の髪が五十束、スラッシャーの鋏が七本……」


 腕輪型端末が表示する空間投影ディスプレイをスクロールし、リストを読み上げる。


 今回、俺達が此処――難度六ダンジョン軍艦島を再び訪れた目的は、主に素材集め。

 樹鉄刀以外、殆ど全損した装備一式を作り直すため、必要な材料を獲りに馳せ参じた次第。


 長丁場のアタックに於いて、良質な防具は必要不可欠。

 攻防一体の『豪血』『鉄血』並行発動は纏刀赫夜じゃなきゃ出来んし、アレ常用可能なほど燃費良くねぇし。なんなら七形態で一番の大食らいだ。

 何より、切り札をポンポン出すとかカッコ悪い。


 ちなみに、スカルマスクだけは速攻で新調した。

 この左右に開くギミック。マストアイテムですよ、こいつは。


 ……しかし。


「カシマレイコの脊柱が四本、テケテケの指が二十本、姦姦蛇螺の肋骨と鱗が――」

「聞けば聞くほどグロテスクなラインナップね」


 全くだ。エド・ゲインかっつーの。


 が、致し方ない。

 俺にとっては、まさしくの素材なワケだし。






 スロット持ちの中には、特定系統の素材だけで完全統一した装備品を用いた際、性能以上の力を引き出せる特質の持ち主が極々稀に居るらしい。


 その条件ってのが、他ならぬ


 片や二千人に一人のスロット持ち、片や全世界に数百人しか居ないタイプ・ブルー。

 双方を併せ持つ該当者が少な過ぎて、殆ど世に出回ってない情報。

 実際、俺も果心に聞くまで初耳だった。


 で、調べた結果、俺は怪異・都市伝説系に属する女怪と極めて相性が良く、統一装備を身に着けた場合、カタログスペックを何倍も凌ぐ向上が見込めるとか。

 こいつは難度九ダンジョンの最深部、七十番台階層でも通用する数字だ。

 あのアステリオス・ジ・オリジンの攻撃にも耐え得るだろう。利用しない手は無い。


 ……ただし、怪異・都市伝説系クリーチャーは、アイテムドロップ率が著しく低い。

 重ねて俺の標的は女怪。なまじ人間に近いフォルムゆえ、リストにも挙がってる通り、猟奇的な素材が大半を占める。


 必然、在庫を抱えた企業や同業者など皆無。

 欲しければ外注するか自分で調達せねばならず、こうしている。


 とは言え、別に不満は無い。

 素材蒐集も探索者シーカーの醍醐味。重ねて俺の場合『ウルドの愛人』でドロップ結果を差し替え、ストレス無くゲット出来るし。


 第一、どうせシャバに居ても群がる人人人で不快な思いをするだけだ。

 寧ろ丁度良かったわな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る