305
日本最悪の無法地帯、と呼ばれる町がある。
ま、俺の生まれ故郷なんだが。
そして無法地帯などと大層に言っても、別に世紀末な棘付き肩パッドのモヒカンとかが跋扈してるワケではない。
ただ、ちょっと前時代寄りな価値観で血気盛んな奴等が住民の大半を占めていて、必然的に諍いの種が他所と比べて多いだけだ。
「噂ばっかり独り歩きした、蓋を開ければ大したことのねぇ、つまらん小都市さ」
「…………」
なんだよリゼ。ジト目で見やがって。
「言いたいことがあるならハッキリ言えや」
「じゃあ言うけど」
うむ。
「町に入るなり絡んで来た死ぬほどガラが悪い連中を十人単位で叩きのめした挙句、そいつ等を積み上げて椅子にしながら吐く台詞じゃないわよね」
まぁな。
「あー、と……役場は、どっちだったか」
大学に上がって以来一度も帰ってない所為か、すっかり土地勘ボケちまった。
仕方ない。適当な奴に聞こう。
「エクスキューズ・ミー。そこ行く全身ダサい刺青のスキンヘッド、道を教えろや」
「聞き方」
いいんだよリゼ。ここの奴等に下手に出たって得なんぞ一ミクロンもねぇぞ。
「なんじゃ小僧、喧嘩売っとんの――アイエエエエ! り、龍王!? 龍王ナンデ!?」
俺を見るなり人相最悪の犯罪者顔を恐怖で慄かせ、尻餅までつくスキンヘッド。
ビビり過ぎだよ。俺が貴様に何をした。初対面だろうが。
「ひいいいい! 本物だ、間違い無く本物だ! 七年前、十本纏めて砕かれた肋骨が唐突に痛み始めたぁぁぁぁッ!!」
初対面じゃなかったし、普通に何かしてたわ。
悪いな。誰をどうブチのめしたとか、いちいち覚えてるタイプじゃねーのよ。
「みんな逃げろー! 大いなる災いのカムバックだー!」
「待てい」
実に美しいクラウチングスタートでダッシュかけようとしたスキンヘッドの襟首を引っ掴み、アスファルトへと押し付ける。
トンズラこく前に道教えろ、道。
「すっかり人の気配が無くなったわね……」
元より賑わっていたとは言い難かったが、それでもチラホラと窺えた人影すら消え失せた大通り。
懐かしいな。そうそう、こんな感じの扱いだったわ。小学校高学年くらいから。
「にしても煤けた雰囲気の街並みだこと。ボロボロのビルとか目立つし」
「こんな土地だからな。業者も来たがらねぇんだよ」
尚、今し方に通り過ぎた廃ビルは、俺が小五の時に潰した某自由業の組事務所だったりする。他にも詐欺グループの拠点とか、ヤンキー共の溜まり場とか、色々。
ああいう輩は警察になんぞ駆け込めないし、駆け込んだところでマトモに相手して貰えるワケがないからな。高校卒業までの間、ちょくちょくストレス解消に付き合って頂いてた。感謝。
「顔の形が変わるまで殴ろうと罪に問われない。そういう人間も世の中には必要なんだぜ」
「どんな育てられ方したら、アンタみたいなのが出来上がるのかしら」
難しい質問だな。
何せ両親からは青い血の影響で化け物扱いされ、ネグレクト受けてたし。
「物心ついて以降、誰かの世話になったことは一度もねぇ。基本的に一人で勝手にデカくなった」
「アンタが言うと冗談に聞こえないんだけど」
事実、冗談じゃねーからな。
「しかしリゼ。本当に良いのか?」
「何が」
何がって、そりゃキミ。
「婚約を回避する方法を考えろと言うから献策したが、改めて思えば、あんまり良案とは呼べない気がしてな」
「そう? 私はアンタの話を聞いた時、目から鱗が落ちる気分だったけど」
左様で。
お前が構わないのなら、とやかくは言わんけど。
「と、もうこんな時間かよ。早く行かねぇと役場が閉まっちまう」
「急ぎましょ。明後日の朝には、実家の門を叩いてなきゃだし」
アイアイサー。
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