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 難度八未踏破ダンジョン、青木ヶ原天獄の制覇。

 その公式発表と編集済み動画の公開が行われた際、まず真っ先に話題を呼んだのが、僅か三人という、世間一般の基準に照らせば殆ど冗談としか取られないレベルの少数パーティによる攻略であった点。


 高難度ダンジョンに於ける推奨人数の十分の一未満。当然と言えば当然の反応。

 ネットでは様々な意見が錯綜し、一部サイトでサーバーダウンすら起こす始末。


 ――けれど。暫くの後、そんな喧騒は中身の一切を塗り替えられた。


 リゼがダンジョン内外を繋ぐ抜け穴を作った際の記録が、出回ってしまったことで。


 空間転移。或いは空間跳躍。

 未来視、事象改変、死者蘇生、時間操作と並ぶ五大異能のひとつ。


 二〇六七年現在で確認されている空間転移が可能なスキルは『ベルダンディーの後押し』を除き四種。

 習得者は五人。全世界、数百万人のスロット持ちの中で、だ。


 無論、俺みたく自分のスキルを非公開設定にしてる奴も居るだろうが……それを加味したところで両手の指さえ埋まるまい。目立つチカラだし。


 ともあれ論を俟たず激レア。そいつは分かってた。

 だがしかし、些かばかり理解不足だったらしい。


 何せ、知らなかったのだ。

 が出来る空間転移能力者など、現在どころか過去四十年を遡ってさえ――リゼ一人だけだという事実を。






 四種在る空間転移スキルのうち三種に能うのは、ダンジョンからの脱出のみ。

 それもモノによっては深い階層の場合、複数回に分けた転移を繰り返さなければならない。

 残る一種に至っては距離制限こそ無いものの、発動自体に数日のインターバルを挟む必要があり、そもそもダンジョン内では使用不可ときた。


 反面リゼは『ベルダンディーの後押し』『呪胎告知』『飛斬』『消穢』『幽体化アストラル』『ナスカの絵描き』と、あまりシナジーが感じられない六つのスキル全てを緻密に組み合わせることで、なら何処へだって行ける。数百グラム分の骨肉を注ぐだけで、だ。

 とどのつまり使い勝手の次元が違う。しかも難度七のダンジョンボスを単独で倒せる戦闘力付き。

 否。空間斬の威力を鑑みれば、恐らく難度八も相性次第でイケる筈。


 謂わば世界最優の運び屋ポーターにして攻撃役ダメージディーラー

 いきなり一桁シングルに抜擢されようと、何の不思議も無い。


 ――突如そんな存在が降って湧いたことで、世界各国の主要なチームは今、挙ってリゼの獲得に動いてる。

 実際ここ数日、大学周辺を彷徨く妙な輩の姿を何度も見た。

 探索者支援協会を介して転送される勧誘メッセージ地獄程度、氷山の一角ってワケだ。


 で、アポ無し突撃取材だのとプライベート侵害も甚だしい連中の相手も合わせ、流石のリゼちーも辟易。

 必然、こうして家に篭る運びとなった次第。今のところ住所バレは防げてる模様。


 いや全く、名が売れるというのも楽ではない。地元で悪名馳せてたから、そこら辺の苦労は人一倍、身に染みてる。

 その俺もリゼほどではないにしろ、周りがギャースカ煩いし。


 折角SRC後のイザコザが落ち着きつつあったのに。

 ホント、どう収拾つけたもんか……。





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