302
まだ年度が変わったばかりとあって、今日の講義は一コマだけ。
なので暇潰しにリゼの所へ顔を出すことに。
「リーゼーちゃーん。あーそびーましょー」
〔……馬鹿なノリやってんじゃないわよ〕
ここ二日三日、とある事情でマンションに閉じ篭ってる我が相方様は、インターホン越しの溜息後、エントランスを解錠。
エレベーターで部屋の前まで行くと、タイミング良く扉が開けられた。
「なんだ、千里眼でドアの外を見てたか? 色々便利な技が使えるようになったよな」
「御託はいいから早く入りなさい」
へーい。
〔新着メッセージが届いています。新着メッセージが届いています〕
ガラステーブルに置かれていたリゼの腕輪型端末。
ちなみに俺の端末も、おろしたての
前と比べたら品質も材質も随分違う。しかも細かな装飾付き。
うん。至極どーでもいいわ。
「ホント、うざったいわね……」
メッセージの表示もせず、辟易した様子で音声通知を切ったリゼが、腕輪型端末をクローゼットに仕舞い込む。
次いでクッション山盛りのベッドに身を投げ、ちょいちょい俺を手招いた。
どうした、と寄ってみれば、そこに座れ、と枕元を指差される。
言われた通りにしたら、無造作に掴んだクッションで此方の膝や腹をぽふぽふ叩き始めた。
「んだよ」
「八つ当たり」
あれま正直。
が、やめて貰おうか。埃が立つだろ、お前と違って俺は普通に吸っちまうんだぞ。
「もうイヤ。息詰まりそう」
「外の空気と日光でも浴びろ」
「冗談でしょ」
別段、冗談のつもりは無い。
そりゃ、今コイツを取り巻く状況は分かってるつもりだが、な。
「篭りきりだと却って気が滅入る。昨日だって一緒に来れば良かったんだ」
つむぎちゃんを連れ、横浜の水族館までドライブ。
取材だ勧誘だとしつこい輩は、キッチリ振り切った。
あの程度で俺のインテに追い付こうとは片腹痛い。半世紀前の旧車と侮るなよ。ちゃんと魔石エンジンに積み替え、馬力も八百まで上げてあるモンスターマシンだ。
足回りの反応とかクイック過ぎて、たぶん俺以外が運転したら確実に事故るけど。
や、悪いのは吉田だ。アイツが変なショップ紹介するから、あんな車を買う羽目に。
そもそもアレ、車検ちゃんと通るんだろうな。
――閑話休題。
「アンタとことんバカね。一緒になんて行けないわよ、違う意味で」
「あァ?」
なにゆえ。
「……まあいい。つーか大学の方は休んで平気なのか? 単位ギリ子さんのくせに」
「単位ギリ子さん言うな。当面オンライン授業に切り替えたわ。課題の量は増えるけど、背に腹は変えられないもの」
さよけ。
寝息を立て始めたリゼに毛布をかけてやる。
なるべく音を立てぬようベッドを離れた俺は、静かにクローゼットを開け、アイツの腕輪型端末を取り出した。
「おーおー、すげぇなオイ」
未読のメッセージを開けば、出るわ出るわ、探索者支援協会が仲立ちした勧誘文の雨霰。
送り主は名の知れたDランカーだったり、専属の
しかも、その数、優に百件以上。
取材や番組出演なんかの依頼も勘定すれば、更に膨れ上がる。
あ。また一件、新しく届いた。
「俺の十倍ひでぇ」
…………。
なんつーか。面倒なことになっちまったなぁ。
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