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〈孤身ノ相手ニ殺メラレルナド、イツ以来カ……久方振リ、胸ガ躍ッタゾ。ホウジノ奴ヲ思イ出シタ〉
「……ホウジ? 斬ヶ嶺鳳慈のことか?」
そう言えば、この魔界都庁を最初に攻略した
原則、難度七以上のダンジョンに単身で挑むことは認められていないが、Dランカーは別。
実力と実績を兼ね備えてりゃ、大抵のルールは向こうから目を瞑ってくれるのが世の中。
とまあ世知辛い現実は置いといて。難度八、それどころか難度九の未踏破ダンジョン単独攻略記録を持ってるのは事象革命から四十年余が経った今でも、あの人含めて五人だけだ。
つか、ちょい待ち。
「アンタ。もしかして死ぬ前の自分を覚えてるのか?」
〈当然デアロウ。ソコマデ耄碌シテオラン〉
さも当たり前のように語るフォーマルハウトだが、こいつは結構なニュースだ。
リポップしたクリーチャーは完全な別個体というのが世の通説。
現に甲府迷宮のベヒ☆モスやリャンメンウルフは何度も倒して来たが、奴等に記憶の継承なぞ微塵も窺えなかった。
戦い方も倒され方も毎回同じだったし。
ダンジョンボスは別枠なのだろうか。
いやしかし、
第一、それなら流石に他の連中も気付く。
命の遣り取りやってんだ。どんなに些細だろうと敵の変化は重要。
となれば、一部のボスだけが例外?
中々に興味を唆られる議題だな。
…………。
だからどうしたっつう話でもあるんだが。
コイツ等が前の自分を覚えていようと覚えてなかろうと、結局はブッ倒せばいいだけのことだし。
〈ソウカ。久シク顔ヲ見セヌト思ウテイタガ、アノ男。ヤハリ死ンダノカ〉
「ああ。十年くらい前にな」
さっきまで殺し合ってた奴と世間話するって、なんか妙な気分。
〈彼奴ト、其方ト、アトハ片手デ数エ足リル程度ヨ。サシデ妾ニ挑ンダ人間ナド〉
少ねぇなオイ。もっとガンガン行けよ同輩連中め、何のためにダンジョン潜ってんだ。
〈近頃ハ力モ戻リキラヌウチ、数任セデ殺サレ続ケルバカリデナ。実ニ、ツマラン〉
ダンジョンボスにはダンジョンボスなりの悩みがあるのな。
そんな感慨に耽っていると、フォーマルハウトの輪郭が、さらさらと崩れ始めた。
時間切れ、か。
〈今宵ハ興ジサセテ貰ッタ。褒メテ遣ワス〉
消え行く最中で尚、尊大。
記憶が引き継がれるコイツにとって、死など一時の眠りに過ぎないのだろう。
〈マタ爪牙を交エヨウゾ。叶ウナラ、イズレ来タル饗宴ノ時、今度ハ互イニ死力ヲ尽クシテ、ナ〉
「あァ?」
意味深長な単語を刻んだ台詞。
そいつを最後にフォーマルハウトは灰とも塵ともつかない芥へと還り、星空の下に静寂が立ち込める。
「……饗宴?」
なんのこっちゃい。
ちなみにリゼは、いつの間にか引っ張り出したクッションの上で丸くなって寝てた。
猫かよ。
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