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 力無く転がる、穏やかに緩んだ美しいかんばせ

 神経、血管の一本に至るまで綺麗に形を残した傷口の断面から飛び散った血を、樹鉄刀が意地汚く啜り込む。


 いちいち拭う手間が省けていい。

 そんな風に思いつつ踵を返し、リゼを見遣った。


「帰るか」

「そうね」


 いやはや、明後日から大学ですわ。だるっ。

 改めて思い返せば、俺もリゼも今年で四年だよ。卒論書くのメンドくせぇ。

 なんなら年明け頃には管理栄養士の試験もある。更にメンドくせぇ。

 

 が、単位は取らねばならんし、試験も受からねばならん。

 探索者シーカーと学業の両立も出来んアジャラカモクレンと周りに思われるのは、極めて心外だからだ。


 アジャラカモクレンが何なのかは、寡聞にして知らんけど。

 取り敢えず悪口だと確信してる。響きが間抜けだし。






「じゃあ、外と繋ぐから下がってて」

「おう、チャチャっと頼む――」


〈――ソウ急グコトモ、アルマイヨ〉


 考えるより先。リゼを抱え、一足飛びに間合いを稼ぐ。

 着地と合時『豪血』発動。獣の如き四つ足で構え、集中を高める。


 向き直った先には、くつくつと笑うフォーマルハウト。

 まさか首だけになっても生きてるとは。これが竜の生命力か。てか、どうやって喋ってんだ。


〈アア、案ズルナ。コウナッテハ流石ニ何モ出来ン。程ナク朽チル〉

「……どうする? 一応トドメ、刺しとく?」


 重心が安定しない大鎌をバトンのように一定のリズムで回し、フォーマルハウトに切っ尖を突き付けたリゼを、手で制する。


「いや、いい」


 反射的に臨戦態勢こそ取ったものの、確かに戦えるだけの力は感じられない。相当なエネルギーを食う『魅了チャーム』も当然、発動不可能。

 つまり勝敗は決した。ならば、これ以上の闘争は無用。敗者に鞭なぞ打ったところで時間を浪費するだけだ。


 それより。


「ちょ、月彦っ」


 構え共々『豪血』を解き、歩み寄り……俺を仰ぐ首の前で、腰を下ろす。


「こいつは中々に面白い機会だ。死ぬまで暇だろ。少し話そうぜ」

〈ウム。良カロウ〉


 後ろから、リゼの盛大な溜息が聞こえた、気がした。





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