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 籠手の形状に整えることで戦闘能力を得た待機形態『核式さねしき繊竹なよたけ』。

 バランス重視のスタンダードな直剣『斬式きるしき蓬莱ほうらい』。

 埒外な重さが驚異的な破壊力を生み出す大剣『断式たちしき仏鉢ぶつばつ』。

 手数と鋸刃でズタズタに斬り裂く双剣『番式つがいしき龍顎りゅうあぎと』。

 万物貫通と呼んでも大袈裟ではない鋭利さを備えた細剣『穿式うがちしき燕貝えんばい』。

 そして『曲式くましき火皮こひ』と『縛式ばくしき纏刀赫夜てんとうかぐや』。


 形状も特性も丸きり異なる、新生樹鉄刀の七形態。

 気分次第で戦法が様変わりする俺にピッタリの得物ってワケだ。


 ……ん? 断式が龍顎で、番式が燕貝だったか?

 となると穿式が仏鉢? いや火皮の方かも知れん。


 やべえ、こんがらがってきた。

 纏刀赫夜以外の名前が俺のセンスに合わない所為か覚え辛いんだよな。


 そもそもアレだわ。蓬莱が一形態を指す呼称になったから樹鉄刀自体の銘も変わったんだが、そいつに至っては皆目見当もつかん。書いといたメモ失くしたし。


 いや待て、ちょこっと思い出した。

 確か『竹取翁たけとりおきな』か『月齢七ツげつれいななつ』か『かぐや様はボコらせたい』のどれかだった筈。


 後でリゼに聞いとこ。

 つか、いっそ全部リゼに決めさせりゃ良かったんだ。






〈グッ……ウゥ、ウウゥ……〉


 凍てついた地表へと被さる形で飛び散った、夥しい量の赤い血と青い血。

 その中心に倒れ伏し、力無く呻き声を漏らすフォーマルハウト。


「あー」


 軽く伸びをしながら、樹鉄刀を繊竹へと戻す。

 次いで土手っ腹に空けられたバレーボール大の穴を、アタック前に運良く手に入った一級ハイランク回復薬ポーションで塞ぐ。


 ……五分とかからず、戦いは終わった。

 否。五分もかかったと、そう言い換えるべきか。


 ダンジョンボスはリポップ後、半年ほど弱体化が続く。

 それが過ぎれば生来の力を取り戻し、併せてダンジョン自体も活性化を始める。


 故に攻略済みのダンジョンは、大凡このスパン以内にボスを倒し続けるようスケジュール調整が為される。

 わざわざ敵を強くする必要は無いし、こうすれば九分九厘カタストロフ発生も防げるからだ。

 未だ記憶に新しい軍艦島の例もあるため、完全にとは行かないようだが。


 閑話休題。

 とどのつまり、フォーマルハウトは万全に程遠い状態だった。まあ一瞥の時点で分かり切ってた話だが。


 そんな有様にも拘らず、武器もスキルも基本性能も劇的に跳ねた俺を相手に渡り合い、延いては回復薬ポーションが無ければ死んでいるレベルの致命傷まで負わせた。

 痩せても枯れても難度八の魔窟を統べる女王。此方も奥の手を残していたとは言え、素の力は向こうが上か。


「楽しかったぜフォーマルハウト。欲を言やあ全盛のアンタと戦いたかったがな」


 既に死を待つばかりの、半ば骸。

 地へと這い蹲る屈辱を徒に長引かせるのも酷だと思い、手刀を引き絞る。


「首、出せ。せめてもの敬意だ、綺麗に斬り落としてやるよ」

〈……クハッ……オ優シイ、ノウ〉


 俺の言葉を受け、小さく笑うフォーマルハウト。

 なけなしの力を振り絞って仰向けに転がり、そっと顎を上げた。


「豪血」


 動脈を奔る赤光が、樹鉄の籠手まで伝う。

 植え付けられた刃物の概念が強化され、単なる手刀が一級品の剣と成る。


 ――ぽとりと。いとも容易く、首は落ちた。





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