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「ハハッハァ」


 再度、樹鉄刀が形を変える。

 より大きく、より分厚く。俺の背丈すら剣身だけで優に凌ぎ、その威容を示す。


「『断式たちしき仏鉢ぶつばつ』」


 重さと破壊力に秀でた大剣形態。

 ただし、見掛け通りに鈍重だと思ったら大間違いだ。


「ハハハハハハハハハハハッッ!!」

〈ム――グ、ウゥッ……!?〉


 凍った地面が爆ぜる勢いで踏み込み、音を置き去り、間合いを詰め、横薙ぎに振るう。

 フォーマルハウトは腕の鱗を盾とし、これを防ぐも、殺しきれなかった衝撃に表情を歪め、二歩三歩と後退する。


「いーいねェ! 頑丈な鱗だァ!」


 物理法則さえ完全に捻じ曲げた『深度・参』を使った際の尋常ならざる負荷。

 その超回復で益々の向上を遂げた基礎身体能力。

 そいつを更に『深度・弐』の『豪血』で高めれば、軽自動車程度なら乗せただけで潰せる重量の大剣を掴んだまま音より速く動き回るくらいの芸当、朝飯前。


「『番式つがいしき龍顎りゅうあぎと』」


 再三、変形。

 今度の姿は双剣。柄が短く、全体の差し渡しは蓬莱の七割前後。

 緩く弧を描いた刃は粗い鋸状になっており、一刀が数十本のナイフで斬り付けるも同然の、手数と取り回しに秀でた形態。


「ズタボロに腑分けしてやるよォ」


 未だ硬直中のフォーマルハウトに、四方八方から剣戟を見舞う。

 秒間、千にも届く攻撃回数。生半可なクリーチャーなら四半秒あれば細切れの攻めを、崩れた体勢で巧みに捌く技量は見事。


 が。手入れの行き届いていた鱗は着実に削げ落ち、随所を奔る深い亀裂からは血が滲み始めている。

 皮膚の一部が角質化した、爬虫類と同じタイプの鱗か。

 ま、竜もトカゲも似たようなもんだわな。


〈グ……調子ニ、乗ル――〉

「ボディが疎かだァぜッ!」


 鱗で覆われていない、柔らかそうな腹に蹴りを突き刺す。


〈カハッ……ガ、ゲホッ……!!〉


 息を詰まらせ、蹲るフォーマルハウト。

 ……あからさまなブラフ。内臓へのダメージを腹筋で堰き止めやがったくせに。


 蹴った感触から、皮下脂肪の奥に鋼みたいな筋肉が詰まってる。

 曲がりなりにも竜の名を冠するだけあり、容姿に似合わず凄まじくタフ。

 数頼みの攻撃じゃ駄目だな。よく見りゃ鱗も治り始めてるし。

 スピード特化の龍顎では肌を斬るまでが精々か。弱体化が無ければ、それすら難しかったろう。


「『穿式うがちしき燕貝えんばい』」


 双剣が絡み合い、鋭利なシルエットを模る。

 刺突特化の細剣形態。研ぎ澄まされた切っ尖、俺が全力で震脚を打ち込んでも全く曲がらない強度との合わせ技が織り成す、無類の貫通力が持ち味。


〈チィッ〉


 安い引っ掛けは無意味と判じたフォーマルハウトが、首狙いの剣尖を遮るべく右腕を突き出す。


 ああ。そりゃ悪手だ。


「まず腕一本。貰うぜ」


 威力ある突きを繰り出すには助走が不可欠だけれど、既に間合いが詰まっていたため、上半身のバネで代用。

 撃ち放たれた一閃は、フォーマルハウトの掌から肩口までを易々と貫き、五百円玉より大きなトンネルを刻み付けた。





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