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 俺と後ろのリゼから逸れ、左右に流れて行くブリザード・ブレス。


 異常な冷気で荒々しく凍てる地表。波濤を想起させる白いうねり。

 さながら紅海を割ったモーセが如し……なんてのは言い過ぎか。


〈……ホォウ?〉


 思いもよらなかっただろう手管で超常の理たる魔法を破られたフォーマルハウトが、僅かな驚きと感心、好奇心の入り混じった様子で、そっと目を見開く。


 その視線の先には、カタカタと震える樹鉄刀。

 絶賛、咀嚼中。


〈面白イ武具ヨノ。妾ノ息吹ヲ掻ッ切ルトハ〉

「斬ったんじゃねぇ。んだよ」


 元々、樹鉄刀には斬り付けたもののエネルギーを奪う特性があった。

 剣となって尚、微塵も癒えぬ食人木オテサーネクの飢えを根源とした奪掠能力。


 そして、此度の強化にて著しく燃費が悪くなったことで、その飢えも連鎖的に悪化。

 延いては『豪血』の適用も重なり、喰い取る量も咀嚼の速度も以前とは桁違い。

 ここの四十階層フロアボスが、切っ尖を突き立てただけで見る見る乾涸びたくらいだ。


 最早リゼの大鎌と同様の存在、妖刀や魔剣の類になりつつある。

 尤も、リゼ自身が作り出した呪詛のみを受動的に注がれ続けた大鎌とは異なり、雑多なエネルギーを自発的に喰らうコイツの場合、ともすれば主人たる俺にすら牙を剥きかねないと果心は言っていた。

 それはそれで面白い。逆らえるもんなら逆らってみろ。


「さァて、手合わせは終いだ。こっからはガンガンにエンジン回してくぜ」


 体調万全、戦意も十分。

 敢えて問題を挙げるなら、どの形態でやるか。これに尽きる。


 馴染みがあるもんで咄嗟に蓬莱を出したものの、どうも今ひとつ気が乗らん。

 出力を抑えた省エネ形態の繊竹では流石に攻撃力不足だし、ひとまず赫夜は使わないと宣言しちまったし。


 となれば残る選択肢は四つ。

 うーむ、悩ましい。


 …………。

 よし決めた。この際、出し惜しみは無しの方向で行こう。


 だ。


「お前は手を出すなよリゼ。巻き込まれない位置まで下がってろ」

「りょ」





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