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〈――ルゥオオオオォォォォォォォォッッ!!〉
玉座より腰を上げたフォーマルハウトの発した、甲高い咆哮。
激しい空気の震えに一拍遅れて、無数の氷柱を引き連れた雪風が俺達へと迫る。
竜の代名詞たる
しかし、こいつは威力も範囲も段違い。指先を掠っただけで全身が凍り付くだろう、まさしく絶凍竜妃の名に相応しい魔法だ。
中々、気の利いた小手調べ。
であれば此方も、相応の返礼をさせて貰おう。
「起きろ樹鉄刀。お待ちかねの進水式だ」
両肘から先を覆う籠手――樹鉄刀の新たな待機形態である『
迅速に、流麗に、正確に、完璧に。実際の時間にしてみれば十分の一秒足らずな変遷の末、籠手は剣へと成った。
「『
馴染み深い柳刃の直剣。が、前と同じなのは殆ど見た目だけ。
俺の施した改造を、果心が深層クリーチャーの素材を用いて仕上げたことで跳ね上がった性能、御覧あれ。
「豪血――『深度・弐』――」
スキル発動。
動脈を赤光が伝い、やがて俺自身を突き抜け、樹鉄刀の表面へと絡み付く。
鎧った際の『豪血』『鉄血』平行発動と併せて可能になった、樹鉄刀への『双血』適用。
それも初めて使った時より、ずっとスムーズに力が流れてくれる。
キモは樹鉄刀を形作る主材のひとつ、メタルコンダクターの蒐鉄。
もうひとつの主材、あらゆるエネルギーを貪欲に食らうオテサーネクの芯材へと取り憑いた幽体金属。
無理矢理なカスタマイズで剥がれかけていた憑依が繋ぎ直された結果、俺の意思が遥かに伝わり易くなった。
全七形態のあらゆる変形パターンがコンマ一秒を切る移行速度も、その一環。
また、血管に内在エネルギーを流し込む際の効率も上がり、今や連続十五分近く、赤と青を『深度・弐』状態での平行発動が可能。
高難度のダンジョンボス相手だろうと、存分に渡り合える数字。
ただしコストパフォーマンスは相当悪くなった。
一度の抜剣に必要なエネルギー量が、一万円級の魔石でも足りるかどうかって。イージス艦か何かですか。
と。その辺は取り敢えず置いといて。
「さあ喰え」
片手大上段に近い構え。
肩から先を脱力させ、けれど指先だけは柄が軋むほど強く握り締める。
フォーマルハウトの攻撃所作から概ね二秒か三秒。
迎撃態勢を整えた俺は、押し寄せる吹雪の先陣へと唐竹割りを叩き込んだ。
……相手は無形の突風と冷気。本来、剣で斬れるような代物ではない。
されど今の樹鉄刀なら、この通り。
「一振一殺一切一断、てな」
入刀したウェディングケーキもかくやの、それは見事な真っ二つだ。
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