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「おい! さっさと降りて来い! 殺してやるぅ!!」


 どうやら奇剣シリーズの一作だったらしい、斬りつけたものを粉々に砕く出刃包丁を振り回しながら、屋根の上に逃れた俺へと吠え立てる果心。


 参った。とても話し合いに持ち込める状態じゃねぇ。

 リゼも面倒ごとに巻き込まれるのを嫌ってか、家の中に引っ込んじまったし。

 どうしよう。


「よくも蓬莱を虐待したなぁ! あんな無茶苦茶、上手く行ったのは百にひとつの偶然だぞ! このロクデナシDV野郎、死ね! 死ねぇ!」


 ひとまずヒルダにでも相談するか。

 しかしドイツは現在、午前六時前後。電話したところで出るかどうか。


 駄目元だ。試すだけ試そう。


〔やあツキヒコ! いい朝だね、おはよう!〕


 まさかのワンコール。

 あと、こっちはもう昼下がりだ。


〔キミから掛けてくれるなんて珍しいね! あ、そうそう! 珍しいと言えば昨日、面白い日本人と会ったんだ! なんとヒッチハイクで自分の国まで帰ろうとしてて――〕


 そいつは実に興味を唆られる話だが、先にこっちの相談を聞け。






「ふあぁ……ちょっと、いつまで騒いでるのよ」


 なんやかんやヒルダとは無駄話をするだけで終わってしまい、通話を切った後、鬼の形相で此方を睨む果心と目が合い、状況を再認識。

 或いは一夜、屋根の上で過ごすことになるかも知れんと考え始めていた頃合、欠伸混じりにリゼが出て来た。


「近所迷惑。ま、空き家ばっかだけど」


 ポケットから出したガムを噛みつつ、果心へと歩み寄る。

 よせ危険だ。何されるか分からんぞ。


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してや――」

「てい」

「――まきゅっ」


 …………。

 手刀一発で気絶させやがった。

 リゼちーてば強ーい。


「って、おい。おいこら。果心の気持ちを汲んで下手に出てた俺の苦労を返せ」

「包丁持って奇声上げてる不審者扱いで通報される前に止めてあげたのよ。寧ろ感謝して欲しいわね」


 正論過ぎて、なんも言えねぇ。





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