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「ツキヒコ、次あれ! あれ乗りたい!」

「分かったから運ぶな。おい下ろせ、おい」


 起きた後、倍の勢いで泣き叫び始めたヒルダをどうにか宥め、気晴らしにアトラクションを乗り継ぐこと暫く。

 すっかり調子を取り戻し、はしゃぎまくる現金な姿に、いっそ敬意すら覚えつつある。


「なぁリゼ。この女、俺が思ってたより大物かも知れん」

「『今日はオトモダチ二人と遊園地! テンション天上人なBに俵担ぎで連行されてるAが爆ウケぴょんwww』」


 やめろ写真を撮るな。そしてSNSに載せるな。このネット弁慶め。

 これ以上個人情報が漏洩したら、マジで見知らぬ誰かの連帯保証人にされちまうだろうが。






「んー、満足! 日本の遊園地は楽しいね!」

「そいつぁ良かったな……」


 ひとしきり絶叫マシンを乗り尽くしたことで落ち着いたのか、漸く解放された俺。

 あー気持ち悪。抱えて運ばれるとか初めての経験だわ。浮遊感ハンパねぇ。


「あ、ツキヒコ! リゼ! 面白そうな店があるよ、入ってみよう!」

「絶叫マシン十連ハシゴしといて元気過ぎだろ……」

「よっぽど楽しいんでしょ。根が子供なのよ」


 肩こりにも似た気疲れを覚えつつ、ヒルダに続く。


 入ったのは、暗幕で仕切られた半円形のテント。

 カラフルな字体の看板に、大きく『あなたの運命、私のスキルで占います』と書いてあった。


「占術系のスキル持ちがやってる店みたいね」

「基本、大外れの系列だな」


 例えば昔、前世を占えるスキルの持ち主に会ったことがあるけれど、あんなものが探索者シーカー活動の役に立つとは全く思えん。

 それどころか日常生活でも光が当たる機会など滅多に無いだろう。貴重なスロットをひとつ食い潰すようなもんだ。


 ちなみに、そいつ曰く俺の前世は呂布奉先と本田忠勝とシモ・ヘイヘとジャック・チャーチルのハイブリッドらしい。

 アホか。小中学生が喜びそうな武将だの軍人だのの名前並べただけじゃねーか。

 そも前世ハイブリッドとか、ワケ分からんし。


「『スクルドの眼差し』くらいじゃねぇか? 占術系で有用なのは」

「コスタリカの聖女サマだけが持ってたやつでしょ」


 然り。かのフェリパ・フェレスの代名詞、完全な未来予知を実現した、神の領域に程近いとされるスキル。

 もしこの先、同スキルの習得者が現れたなら、さぞ手厚い保護と厚遇を受けられよう。


 寿命削って早死にする代わりに、な。






「凄まじくインチキ臭かったぞオイ」


 四つのスロット全てが実用性の低いスキルで埋まってしまい、大成を諦め、十番台階層で細々と活動する下位探索者シーカー

 そんな、探せば割と居る、寧ろ多数派と呼べるタイプのツイてない奴が営む店を出、近くのベンチに腰掛ける俺達。


「『Dビジョン』だっけ? 運命の相手が抽象的なイメージで視えるって言ってたよね」


 自身の告げられた内容に考察を巡らせているのか、腕組みしつつ小さく唸るヒルダ。

 確か『奇運の二文字を背負った傾奇者』とか言われてたよな。意味不明。


 ちなみにリゼは『女神を侍らせた修羅』。

 そして俺は『寄り添う死神、或いは白い蜘蛛、或いは血で結ばれた硝煙、或いは百年を見通す瞳』。

 いや、何故に俺だけ複数。


「なんつーか、どうとでも受け取れる内容だな」

「ね」


 よくまあ、こんなので一人三千円なんて値段設定に踏み切れるもんだ。

 しかも運命は些細な切欠で移ろうから、次に見た時は別の結果になってる可能性もある、とか抜かしてやがった。

 明らかリピーター狙い。場所柄、客の財布も緩みやすいし、何より日本人は占いに目が無い。商売上手め。


 ……てか、そもそも運命の相手って、どんな意味合いでの運命だよ。

 せめて、そこハッキリさせろや。





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