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「――みぎゃあああああああああああアッッ!?」
あちこち崩れかけた仄暗い廃病院の一角に、ヒルダの甲高い悲鳴が劈く。
そして、そのまま白目を剥き、糸が切れた人形さながら、盛大に倒れてしまった。
「あーあー」
言わんこっちゃない。
縦横無尽にレールを駆けるジェットコースターから響く、乗客達の叫び声。
スナックやアイス片手、人混みを往く家族連れの楽しげな会話。
「うっ、うぅっ……ひぐっ……」
そんな明るい喧騒に満ちたアミューズメントパークの片隅で、べそべそ泣きじゃくるヒルダ。
ホラー系が死ぬほど苦手なくせ、山梨が誇る世界最恐クラスのホーンテッドハウスに挑み、案の定リタイア。つーか失神。
所要時間、ざっと三分。気絶した後も俺の腕をヘシ折らんばかりに掴んで離さなかったため、抱えて連れ出す羽目に。
尤も、こうなる未来は割と見え透いてた。
故、何度も制止したのだが。負けず嫌いの意地っ張りめ。
ちなみにリゼは折角だからと一人で続行中。
アイツはアイツで少しくらい怖がれや。可愛げの無い。
「ただいま」
噂をすれば、膝丈パーカーのポケットに手を突っ込んだダウナー系の登場。
腕輪型端末に視線を落とすと、思っていたより時間が過ぎてる。
「遅かったな。道にでも迷ったか?」
「まさか。ちょっと『
なんつう悪趣味。ロクな死に方しねぇなコイツ。
そういう遊び半分の軽率な行動が、思わぬ事故を招いたりするんだぞ。
似たスキル持ってたら、たぶん俺も同じことやるだろうけど。
「ひっく、ひっく……」
「で、お前は一体いつまで泣いてんだ。数多のレコード掻っ攫ったEU圏内ナンバーワンルーキー様が、おお情けねぇ」
「だってだって……ひぐっ」
だってもヘチマもあるか。幕内力士も喚き散らすレベルの馬鹿力で延々と人の手を掴みやがって。
俺じゃなかったら、とっくに骨が砕けてるぞ。
「あんなの全部ただの作り物だ。俺の家でモノホンに出くわしといて、今更エセ相手にビビってどーすんだよ」
「…………確かに、そうかも」
俺の言に一理を感じたのか、段々と啜り泣く声を収めて行くヒルダ。
たく、世話の焼ける。そして、いい加減に手を離せや。
「え。居たわよ本物」
「……あァ?」
「ほら」
思いもよらなんだリゼの返し。
板ガムを噛みつつ、証拠とばかりヒルダの肩を肌蹴させる。
その白人特有の真っ白な首筋には――手形のアザが、くっきりと刻まれていた。
「………………………………きゅう」
あ。また気絶した。
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