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「しゃーせー」


 一三八〇円になりまーす。


「おべんとあっためますかー」


 レジ袋は御入用でしょーか。


「ありゃっしたー」

「……あの、藤堂くん」


 はいはい店長なんでしょう。


「吉田くんの代理で入ってくれるのは助かるけど、別に彼の接客態度まで真似しなくてもいいからね?」


 ほう成程。

 了解、ならば自己流で行かせて貰おう。






 年齢確認ボタンを押せ。

 あァ? 「俺が未成年に見えるのか」だ?


「質問に質問で返すなダボが。こっちが先にハタチ以上か聞いてんだ」


 タバコ買いたきゃ押すのがルールなんだよ、下らん手間かけさせるんじゃねぇ。

 分かったなら押せ、すぐ押せ、さっさと押せ。それか砕け散れ、バーコードが。


「……アンタ、何やってんの?」

「ようリゼ。なんだ買い物か」


 大量のガムを抱えたウサ耳パーカーがレジに寄って来たと思えば、リゼだった。

 何って、見りゃ分かるだろ。


「バイトしてんだよ。コンビニで」

「私には毛根が可哀想な中年を恫喝してるように見えるけど。泡吹いてるじゃない」


 接客なんて大体こんなもんだろ。

 少なくとも俺が探索者シーカーになる前は、こういうノリで働いてたぞ。






 クレーマーを三人ばかり黙らせた後、シフトを終え、外でガム噛んでたリゼと帰路に就く。

 三十分も待ってるとは、この暇人め。


「ところで、なんでバイトなんかやってたワケ?」


 そりゃ斯々然々。


「異世界に召喚された知り合いの代理? どう考えても嘘でしょ、そんな馬鹿話……」

「いやいや、あの野郎なら無くも……つーか、よく分かったな」


 マジで斯々然々としか言ってねぇのに。

 アレかね。スキル『幽体化アストラル』の副産物で魂の視認が出来るから、その揺らぎで身近な人間の表層意識くらいは読み取れるのかも知れん。


 となると、もうひとつ得心。

 コイツが矢鱈フォロー上手で敵の機先や間隙を突くのに長けてるのは、肉体よりも早い精神的な起こりを見極めてたからか。






「お。ヒルダからメッセだ」


 腕輪型端末が小さく振動し、届いたメッセージを網膜表示する。

 ドイツ語の文面。和訳ソフトを使うほどでもなかったため、そのまま読み上げる。


「えーと……週末には退院出来るってよ」

「そ」


 青木ヶ原を出てすぐメディカルチェックを受けたヒルダは、内臓破裂と人工臓器故障で病院に運び込まれた。

 回復薬ポーションが効き辛いってのは不便だな。尤も、普通なら全治半年はかかるダメージが九日で癒えれば、恩恵としては十分か。

 しかも入院期間の半分は、壊れた義手の修理に必要な検査のためだし。


「天獄攻略が公表される月半ばにはドイツに帰るらしいし、忙しくなる前に遊園地でも連れてくか。行きたがってたもんなアイツ」


 ただしネズミの国は勘弁な。

 上手く言えんが、色々な意味でアウトな気がする。





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