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さて。
「ボチボチ身の振り方でも決めるかね」
数十日分の食料の約三割を費やし、腹は満ちた。
残っていた
なんなら『錬血』で血も補充した。
が……それでも万全とは、まるで言い難かった。
「俺は『深度・参』の反動で体力の低下が著しい。この分じゃ何日かは『深度・弐』の発動も儘ならん」
軽くステップを踏みつつ、虚空に連続でジャブを放つ。
ざっと秒間八発。遅過ぎだわ、錆びてんのかよ。
ハンドスピード重視の手打ちで、この体たらく。涙出そう。欠伸で。
「ヒルダは内臓破裂が治りきってねぇ。他の怪我は兎も角、どうも臓器系統に対する
「体質だよ。薬物耐性が強過ぎてね。ついでに言うと、あと二十時間は『
マジか。尤も特に驚きは無い。
大方あの異様な力のツケ。極めて妥当な代償だ。
「トドメにリゼも調子半分だろ。だいぶ甘く見積もって」
「……私は大丈夫よ。怪我ひとつしてないし」
強がんな。
「短時間で削り過ぎだ。どれだけカロリーを摂ったところで、すぐ血肉にはならん。寧ろ消化と吸収を挟む分、食後暫くは却って動きが鈍る」
平然を装っちゃいるが、よく見れば大鎌を支えに漸く立ってる有様。
つか、さっきはこれよりフラフラで俺を助けたのか。無茶しやがって。
……とまあ、俺達全員が絶好調には程遠い有様。
こんな状態で帰路に就こうものなら、道中殺されるのがオチ。
ダンジョン攻略は行きより帰りの方が何倍も殉職率高いし。
「んん……や、案外イケるか?」
ダンジョンボスが死ねば、その復活に多くのエネルギーが割かれる。
必然、他へのリソースは大きく目減りし、各階層のクリーチャー達はフロアボスも含めて弱体化する。
加えて、一度踏破されたダンジョンは固有のギミックが停まる。
あの七面倒臭い模様替えに煩わされず上へ戻れるとなれば――いや待て。階段の位置を『ウルドの愛人』で調整出来なくなる分、寧ろ面倒が増しただけじゃねーか。
オマケに今は『ヘンゼルの月長石』も使えないと来た。あんなだだっ広い迷路、二十階層分も手探りで歩きたくねぇ。
「参ったな」
やはり十分な回復を図るまで、ここに留まるべきか。
難度八のボスともなればリポップに最短でも一年近く掛かる。危険は無い。
食料が保つか微妙だが。
しかし、こんな辛気臭いとこに何日も缶詰とか退屈で死にそう。
嫌だなー。
「…………はぁっ」
不満たらたらの案を脳内で採用しかけていたところ、おもむろにリゼが溜息を吐いた。
「ホント、アンタ達って頭は働くのにバカよね。どうせ帰りのことなんてロクに考えてなかったんでしょ、顔見れば分かるわ」
まさしく。
「登山中に麓は振り返らん主義だ」
「僕も後戻りは嫌いでね」
「カッコ良く言えば正当化出来ると思ったら大間違いなのよアンポンタン共」
うーむ。なんも言えねぇ。
「ったく」
盛大に肩をすくめた後、大鎌を担ぐリゼ。
少し危うい足取りで、階層中央へと歩き始める。
「なんとかしてあげるから、ちょっと待ってなさい」
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