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「あつ、あつつっ……コロッケ熱い、舌ヤケドした……ふーっ、ふーっ」

「ねえ月彦、パフェは? パフェ食べたい。ついでにシュークリームとエクレアも」

「菓子類は四日目くらいで残らず平らげただろ。お前が一人で」


 手当たり次第に出した食料を三人で貪る。

 食い合わせも栄養バランスも完全無視。今は、ただ大量の養分が必要だった。


「ちょっとヒルデガルド。それ私の肉よ」

「早い者勝ちこそ世の理。焼肉定食」


 壊れた腕の代わりに『空想《イマジナリー》力学ストレングス』で計九本のフォーク、ナイフ、スプーンを操り、気に入ったものばかり掠め取るヒルダ。便利だが行儀悪過ぎだろ。

 あと弱肉強食な。その翻訳機マジ買い換えろ。


「あ、リゼ! そのお弁当、僕が狙ってたのに! 横取りなんて人間性を疑われる行為だ、レディに相応しい品格を持ちたまえ!」

「早い者勝ちを謳った舌の根も乾かない内に、よくそんな台詞が吐けたわね」


 全くだ。


「だって一番美味しそうだもん! こっちの肉返すから頂戴!」

「お断り。そもそも、この『リゼスペシャル長期遠征仕様セカンドエディション』は月彦が私専用に作ったメニューよ」

「何それズルい!」


 いい歳こいて食い物のことで喧嘩すんな。

 つか、そんな長ったらしい名前を付けた覚えはねぇ。ファーストどこ行った。






 リゼとヒルダが睨み合って弁当争奪戦を繰り広げる傍ら、ひと心地ついた俺は自分用の栄養食を用意する。


「どこに仕舞ったか……お、あったあった」


 基本的に食料はリゼの圧縮鞄に纏めてあるのだが、こいつは別。

 リゼが嫌がるから。


「……ツキヒコ。何それ」


 流星が如く飛び交うフォークを箸で弾かれたヒルダが、怪訝な表情。

 何と問われれば、こう答える以外にあるまい。


「オオスズメバチの蜂蜜漬けと生きたマムシ」

「…………え? 食べるの?」


 当たり前だろ。こんなもん持ち込む理由が他にあると思ってんのか。


 濃厚な蜂蜜滴るスズメバチの成虫を摘み、バリボリと食らう。

 んまい。やっぱ毒針ごと漬け込むと一層に旨味が増すな。


「ヒルダもどうだ? リゼは偏食が酷いからな、こういうの口にしねぇのよ」


 美味いのに。栄養つくのに。


「うん、遠慮しとく。ちょっと無理」

「そうか」


 美味いのに。栄養つくのに。


 多少しょんぼりした気分になりつつ、小さな水槽に入れたマムシを掴み取る。

 うむ。触った感じ、いい塩梅に食べ頃だな。


「鉄血」


 シャーシャー鳴いて威嚇するマムシの下顎を噛み、上顎を引っ張った。


 こうすることで二枚下ろしに裂け、しかも砕けた骨と内臓が綺麗に落ちる。

 あとは皮を剥ぐだけ。魚捌くより簡単。


「美味し。やっぱ蛇は生食に限るな」


 肉もそうだが、このまだ脈打ってる心臓が最高に珍味なのだ。

 マーベラス。活力漲るぜ。


「……ツキヒコって何処でも生きて行けそうだよね」

「同感。裸でヒマラヤかサハラあたりに放り込まれても平然と暮らせるわよ」


 お前ら俺を何だと思ってやがんだ。

 山ならまだしも、流石に砂漠は水が無きゃ死ぬっつーの。





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