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 この一戦で以て、身命擲とうとも構わない。

 そんな気概にて臨んだミノタウロスとの衝突は、賭け金相応に熾烈を極めた。


 、息を入れる暇も無かった激闘。

 交わした攻防の応酬、その総数は軽く数万を上回る。


 本来ならば『深度・弐』――それも『豪血』と『鉄血』を両立させた状態で、三十秒を超えた全力戦闘は至難。

 況してや五分とか、戦える戦えない以前の話。普通に血が尽きて死ぬ。


 ……しかし。その壁すら、我が剣は斬り払った。


 謂わば。血管内に樹鉄刀の内在エネルギーを混ぜ込み、血液濃度を上げる荒技。

 これにより摩耗速度は、体感およそ一割まで減少。

 十分の一とは中々に笑える数字だ。かなり大爆笑。


 ネックだった継戦能力の飛躍的向上。重いリスクは強大なスキルの宿命みたいなもんとは言え、煩わしさを感じなかったワケじゃない。

 赤と青の並行発動も含め、さながら翼を得た心地。

 天獄の最奥へ踏み入る前の俺とは完全に次元を異にしたと、確信を持って頷ける。


 …………。

 まさしく地から天へ飛び立つ勢いで上り詰め、そこで漸く互角とは。

 しかも相手は武器を失くし、三つのうち二つの目玉を失くし、心臓まで失くした挙句、毒と呪詛に冒された死に体。


 世界のなんと広く、深いことか。

 強さというワンジャンルですら、俺の想像など際限無く超えて行く。


「ハハッ」


 だが――そうでなくては面白くない。

 追い続け、求め続け、欲し続け、乞い続けた探索者シーカーとなった甲斐が無い。


「ハハハハッ」


 楽しい。愉しい。

 持ち得る暴力の限りを尽くそうとも壊れねぇ敵が、嬉しい。

 その敵との戦いで加速度的に強くなる実感が、堪らない。


「ハハハハハハハハッ」


 願わくば、この素晴らしい時間を、飽きるまで続けたい。


 が、生憎そいつは無理な相談。


 血の強化にも限界はある。

 そして現状のまま戦い続けたところで、決め手の薄い堂々巡り。

 然らば、いずれはダンジョンという無尽蔵の供給装置を持つミノタウロスへと流れが傾いてしまう道理。


「…………」


 自分だけが斃れる未来を想像した瞬間。喉を震わせていた笑い声が、ぴたりと止まる。


 ……負けるのは御免だ。

 少なくとも今は、今だけは死んでも負けたくない気分だ。


 だったら、どうすれば良いのか。

 決まっている。わざわざ頭抱えて考えるまでもない。


 至れ。より前へと、より高くへと。


「もしも隠し球があるんなら、とっとと出しなミスター・ビーフ」

〈ナニ……?〉


 本能的に何かを察したのか、打ち合いを止め、俊敏な動きで距離を取るミノタウロス。

 対し、俺は獣の如く前傾に構え、十爪を石床へと突き立て、横一本の線を刻む。


はな。俺も知らねぇのよ」


 足跡が残るほど強く。それを踏み越えた。





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