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 ぴったりと体表に絡み付く樹鉄。

 纏うと言うより、吸着や接合に近い感覚。


 試しに両掌を擦り合わせ、軽く火花を散らす。

 まるで生まれた瞬間から持ち合わせていたかのような、オーダースーツなど比較にもならない一体感。

 思わず口の端が吊り上がる。


「ハハッハァ。悪くねぇ」


 剣身生成時の統一性、形状記憶を崩すことで可能となった樹鉄の鎧。

 このところ抜剣の都度、重心がブレていたのは、こうなるための予兆だったワケだ。


 再生と崩壊を繰り返した揺籃の果て。

 都合二本、俺の腕を喰らった樹鉄刀が辿り着いた、新たな形態。


「名前が要るな。後でリゼに案を出させるか」


 急拵えで鎧ったため、あちこち歪だし隙間だらけで見てくれは悪いが、まあ構うまい。

 特撮の未完成強化フォームとか、ロボットものの応急修理機とか、けっこー好きだし。


 閑話休題。

 壊れたハーフマスクを再現した髑髏の顎を軽く撫ぜ、ミノタウロスへと睨みを利かす。


 ……向こう側の殺風景が良く見える胸部の風穴、今にも蛆が湧きそうな左眼の傷。

 俺が『豪血』状態で消化器官を強化しながら飯をかっ喰らい、腕の再生に注力していた間、ヒルダとリゼが与えた甚大な損傷。


〈オオオオォォォォ……〉


 されど、未だミノタウロスは倒れない。

 視覚を喪って尚、心臓を欠いて尚、戦う力を存分に残している。


 …………。

 否。これはどころの騒ぎじゃねぇな。


〈オオオオ……オオ……〉


 俺の直感が、嘗て無いレベルで警鐘を鳴らしてやがる。

 恐らく、いいや間違い無く。


〈……………………面白イ〉


 奴にとってのは、ここからだ。





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