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「げほっ。あークソ」
ヒルダとバトンタッチで戦線を退いた後、己の容態を検めてみれば、まあ酷い有様。だいぶ笑えないレベルの疲労とダメージ。
特に失血。これ、あと五秒『深度・弐』を続けてたらヤバかったな。
ごめん訂正。やっぱ笑えるわ。
「ははは」
「よく笑ってられるわねアンタ」
いやいや、そう言いますけどねリゼさん。
「視界グチャグチャ、耳鳴りガンガン、手足の感覚も殆どゼロ。笑うしかねーだろ実際」
「……その状態で、なんで戦えるのよ」
「ノリ」
あと勘も少々。
「さて、と」
深く呼吸を繰り返し、巡りの悪い身体に酸素を行き渡らす。
多少は頭の中がクリアとなった頃を見、状況確認及び、思量を始める。
「ヒルダの奴は『
上の階層で見た時と、明らかに動きの質が違う。
そして印象的には、強化より暴走に近い。
何らかのスキルの影響だとすれば、相当ピーキーな代物だ。
つか、両腕とも義手だったのかアイツ。さては駆動音を『凪の湖畔』で消してたな。
にしたって、違和感を全く悟らせんとは。流石としか言えん。
「差し当たり毒を打つ気は無さそうだな。賢明だ」
「?」
零した呟きに怪訝な目を向けてきたリゼへと、言葉を続ける。
「『ギルタブリル』の毒は多彩で強力だが、いくらなんでも難度八のダンジョンボスを相手に即効性は見込めねぇ。隙を晒すだけだぜ」
加えて先程、
直接的な防御力だけでなく、毒耐性も極めて高いのだろう。ああ厄介なりや。
「どーすっか」
ヒルダは……押してるように見えるも、文字通り見えるだけで、あの様子じゃ長くは保つまい。
立て直しの猶予は精々数分。それまでに俺が為すべきこと。
論を俟たず、左腕の修復と血の回復。
失血死寸前のザマで腕一本どうこうするのは現実的でないため、まずは血。
……なのだが。
「増血薬は、もう使えねぇ」
既に飲んでしまった。
アレは劇薬。適量以上を無理に服用したところで、血を増やすどころか内臓がイカれるだけ。
となれば自ずと残る選択肢は『錬血』。
こいつを『深度・弐』で発動させれば、失くした血を一分で取り戻せる。
しかし。
「カラッカラに乾涸びちまうよなぁ」
何せ『錬血』は、血を補填するために同量の水分を持って行く。脱水症状は勿論、身体への負荷自体も相当。
今なら、ざっと体感で三リットル強か。補血に十分を費やす『深度・壱』でも、普通なら病院送りレベルのフィードバックが入る。
あくまで血を回復するためだけの技。体力は寧ろ削られる。
しかも使ってる最中は意識が混濁するオマケ付き。身体機能は益々低下、と。
とどのつまり、現コンディションで『深度・弐』なぞ引っ張り出せば、下手すりゃそのまま御陀仏って寸法。
…………。
「錬血――『深度・弐』――」
ふむ。つらつら考えてみたが、特に躊躇う理由無かったわ。
発動直後、猛烈な眠気で足の踏ん張りが利かなくなり、倒れ込む。
硬い石床にキスするよりも先、リゼに抱き止められる。
意識が続いたのは、そこまでだった。
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