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微睡む意識の中、ぬるい水が喉を伝う感覚に目覚めを誘われる。
緩々と覚醒し、最初に拝んだものは、間近で俺を見下ろす赤い瞳。
「中々、死なねぇもんだな」
なんとはなし呟いた後、死神も同然の女と視線を重ねて生を実感したことが可笑しくなり、仄笑う。
「ククッ。人間に不可能は無いってか」
「アンタを人間にカウントすべきか、かなり悩ましいところね」
言ってくれるぜ。
……にしてもアレだ。疲労困憊状態で『錬血』しかも『深度・弐』とか、死ぬ確率の方が高かったろうに。
俺ってばマジ鬼の生命力、しぶとさゴキブリ級。こいつはインド人もビックリですよ奥さん。
そんな軽口を飛ばすと、リゼに頬を抓られた。
何しやがる。
「このバカ。どんどん乾涸びてくアンタに私が取り憑いて水を飲まなかったら、今頃ミイラになってたわよ」
ほう。そいつは手間をかけさせた。
道理で妙に肌が潤ってるワケだ。
「ふうぅぅぅ」
四体へと血が充ち、五感の精細こそ蘇ったものの、未だ十全には程遠い身体。
樹鉄刀を杖代わりとし、
「ヒルダは……」
依然善戦中、か。
硬過ぎて樹鉄刀の刃もロクすっぽ
……とは言え、十や二十の手傷を負わせたところで焼け石に水。
今も少しずつ傷口の腐敗を広げ、奴の力を削いでいる『処除懐帯』で漸く有効打。
要塞ひとつ丸ごと圧し固めたみたいな、およそ馬鹿げた防御力。生半可な攻撃をチマチマチマチマ何千何万重ねたところで望み薄。チリも積もればの精神で致命傷へと至らしめる前に、こっちがガス欠を起こすのが関の山。
勿体無いにも程がある、興醒め甚だしい幕引き。
そうなるより先、一石を投じねばなるまい。
つっても。
「あそこに割って入ったところでなァ」
俺とヒルダの連携は、正直かなり御粗末だ。
部分部分のフォローは兎も角、戦闘全体で見れば、てんで息が合ってない。
早足にダンジョン攻略を進めた弊害。まともに手を取り合う機会に恵まれなかった。
ついでに道中でクリーチャーと出くわす度、互いに俺の獲物だ僕の獲物だと譲らず、半ば奪い合い状態だったのも原因か。
「今なら『呪血』で倒せるんじゃないの?」
ミノタウロスの顔面目掛けて斬撃を飛ばし、動きを鈍らせたリゼが言う。
お前ホント援護上手いな。今のだけでも割と神業だぞ。
「否。今だからこそ使うだけ血の無駄だ」
アレは俺に向けられたヘイトを媒介とする呪詛。
しかし今、ミノタウロスの意識は大半がヒルダに注がれている。
そもそも『呪血』は多対一とか混戦乱戦に向かねーんだよ。
「ふいー」
うーむ、飽きた。どーだこーだと考えるの飽きた。
切り替えよう。兎にも角にも、まず腕だ。
これを治さんことには、ヒルダに時間を稼がせてる意味が無い。
「リゼ。俺の左腕を寄越せ」
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