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 少し間違えれば死へと直結する一撃を耐え凌ぐ。

 絶えず首筋にギロチンが宛てがわれた一瞬を潜り抜ける。

 そして、その都度、自らに修正を加えて行く。


 四肢ひとつ欠いた状態で最大限の能力を発揮するための最適化。

 場当たり的な対応を取るのではなく、十手先、百手先の盤面で利を得られるような行動だけ選び続ける。


「うぅ、ぅるるる……ッッ」


 相手は明らかな格上。悟られては元も子もない。

 希求されるのは、針穴を穿つよりも慎重かつ、翻る燕よりも迅速な誘導。


 ごっそりと神経を抉る、気を抜けば意識が霞む作業。

 喰らい掛かり、喰らい付き、喰い下がり、喰い縛り、ひたすらを行う。


 ――膳立てが整ったのは、三十秒を回った頃合。

 永久にも感じた、呼吸いきも適わぬ時間を乗り越えた成果、と称するべきか。


 コンマ三秒。

 とても誇るに値しない滑稽な数字だが……眼前のミノタウロスから、完全な空白を捥ぎ取ってやった。 






 失血と酸欠で冷たくなった手足。

 罅だらけの樹鉄刀を杖代わり、どうにか倒れ込む失態を防ぐ。


「かっ……は、はっ……」


 くっそ、喋れねぇ。

 なのでハンドサインを使い、傍らのリゼに「よくやった」と伝える。


「……いいから、息整えなさいよ」


 二度の『処除懐帯』と、折々で放った『流斬ナガレ』。

 諸々、この短時間で優に三キロを削り、ろくすっぽ動けないほど消耗してるだろうに。血色の薄れた唇が真っ先に紡いだのは、此方を気遣う台詞。

 育ちの良さか生来の性格か、本質的には甲斐甲斐しいんだよなコイツ。






「ふーっ。よし落ち着いた」

「早っ……」


 血が少ない所為で酸素の巡りが遅い。

 こんなところでも隻腕が足を引っ張るとは。


 …………。

 ま。何はともあれ、だ。


「ひとまず腕の借りはチャラに出来たな」

〈オオ、オオオオッ〉


 我が刺突で右眼を穿たれ、二発目の『処除懐帯』によって得物――鎚斧を破壊されたミノタウロスの苦しげな呻きが、石床を這うように響く。


 如何に表皮や筋肉、骨格の強度が埒外とは言え、俺の『鉄血』と違い眼球や内臓まで硬いワケではない。


 動きの精髄も、大凡を盗ませて貰った。

 至近距離特等席で積み重ねた命懸けの観察が功を奏したな。


「ねぇ、月彦。勝てそう?」


 現状に光明を見出したのか、声音の端を上擦らせ、リゼが問う。

 対し、俺は浮かべていた笑みを深め、吠えんばかりの語勢で以て返す。


「ハハッハァ! あァ――






 ――!」





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