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食らえば『深度・弐』の『鉄血』を発動させた俺でも間違い無く御陀仏な威力の極大斬撃。
そいつをミノタウロスは、嘗て戦った八尺様のように同じ呪詛で相殺するのではなく、単純なタフネスで防いでしまった。
即ち、奴の膂力は『豪血』以上。強度は『鉄血』以上。
正面から『双血』のスペックを凌ぐ敵。
更なる補足を加えるなら、どちらか片方ずつしか使えない俺とは違い、攻防の完全両立。
しかも、そのパフォーマンスを何十時間、何百時間、何千時間だろうと維持出来る。
各節目や最奥に坐すボスクリーチャー特有の、ダンジョンから直接供給される無尽蔵のエネルギー。
七十階層レベルとなれば、半死半生の重傷すら一日かからず快癒する筈。
例外を挙げるなら、リゼの『処除懐帯』。
何せ斬撃を象った呪詛の塊。傷口を見れば早くも膿み、腐り始めてる。
ありゃあ流石に一朝一夕では治らんだろう。
「ともあれ中々に遊びがねぇ、高い次元で纏まったバランスの良い能力構成だ。山本選手もビックリだぜ」
思考と観察を重ねる度、浮かび上がるのは此方側の不利を訴える情報ばかり。
せめてもの幸いは、どうやらフィジカル面にリソースが全振りされていて、高速再生などの異能は持ってないってことくらいか。
いやはや。吹けば飛ぶような朗報だな。
躱す。
弾く。
逸らす。
打ち合う。
受け流す。
引き延ばされた時間感覚の中ですら、目まぐるしいと感じるほどに飛び交う驟雨。
文字通り、降り注ぐスコールの如き怒涛の剣戟。
「チィッ」
ただ、応酬とは呼び難い。
状況は俺の防戦一方。
もっと言えば、折々で差し挟まれるリゼの援護を勘定に入れて、漸く成立している状態。
「ストレス、溜まるぜ……ッ」
やはり隻腕では、圧倒的に手数不足。
蹴りを混ぜたところで焼け石に水。つか具足がイカれちまう。
せめて、五体満足なら。
――無い物ねだりしたって仕方ねぇか。
左腕を再生させる余裕は無く、その猶予を作ることも出来ない。
であれば、今の条件で段取りを組む以外あるまい。
「ふうぅぅっ」
馬鹿げた敏捷性。
物理法則に反した怪力。
ミサイルの直撃も棒立ちで耐えるだろう堅牢。
が――技量と反応速度は此方が上。
その僅かな優位が、辛うじて俺の命を繋ぎ止めていた。
現状を例えるなら、絡みに絡んだ、か細い糸。
扱いを誤れば容易く千切れてしまうそれを解きほぐし、手繰り寄せる作業。
言うに及ばず難事なれど――やってやれないことではない。
「ハハッハァ……上等だっ……!!」
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